目的地で一番に買ったのは、まず帽子。

兄の服の中でもシックなコーディネートだったカイトに
さて帽子はどうするか、となると、困った事に彼に似合い、且つ
洋服に合わせても不自然でない帽子が中々難しくて。


似合う帽子が見つかるまでに、結局一時間は掛かってしまった。


けれども、こうして全体をちゃんと整えてみれば
青い髪だって、結構サマになっているじゃないか。


やっぱり、カッコいい、し。


・・・・・少し悔しかったから、膝裏に一つ蹴りを入れておいてやった。


ええい、そんな目で見るんじゃない。


ひとまず日用雑貨は大体買って、洋服類も
チラホラと趣味なデザインのものを発見して購入できた。


さて、それでは此処で、今までずっと先延ばしにしていた問題を、一つ。


駄目だ、此処は腹を括れ、自分。


だってホラ、こればっかりは
兄貴と兼用にさせる訳にはいかないんだよ、


そこは個人にどうしても必要な所だと思うわけ。


「・・・・・さて、カイト。」

「はい?」

「ボクサーパンツとトランクスどっちが良い?」

「・・・・・・・・・・は?」

「・・・・・だから、下着の話よ、」

「・・・・な・・ななななななっ!!?」


暫く間を置いたその後に、カイトの顔が一気に赤くなった。

赤くなりたいのはこっちだ、馬鹿。


「仕方ないでしょ!?
 こればっかりは兄貴と兼用にさせるわけには行かないんだから!!」

「そりゃ・・っ
 そりゃそうですけどっ!!」

「因みにブリーフは却下!気持ち的にキッツイ!!」

「お、女の子が
 大声でブリーフとか言うんじゃありません・・・・!」

「カイトこそカッコいいくせに大声でブリーフとか止めてよ!」


あああああもうクッソ、これもう嫌がらせとしか思えない

っていうか、彼の有名ボーカロイドのしかも本人に
何ブリーフとか言わせてるんですかあたしゃ


いや違う、此れは不可抗力だ、私のせいじゃない。


うん、私は悪くない!



「ええい、さっさと答えろ私だって何で嫁入り前の娘が
 彼氏でもない男にこんな事聞かなくちゃいけないんだとか
 色々思いながらも腹括って聞いたんだからさあ答えなさい!」


一息で言い切って、肩で息をする。

カイトは、赤い顔で暫く固まった後に何度か口をパクパクとさせて
やがて諦めたように肩を落とした。


「・・・・あの、マスター」

「・・・・何さ。」

「俺、今軽く泣きたいです。」

「奇遇ね、私もよ。」


ああもう、なんでこんな会話をしてるんだ、自分たち。







共にアイスを食べるのは、









どうにか一通りの買い物を終えたのは、四時近くと言ったところで
まあこれでも早く終ったほうだろう。

荷物は約束通り、兄が回収していってくれた。

ついでに、今日は夕飯はいらない、だそうだ。

兄も割りと遊び人だから、別に珍しい事じゃない。

明日の真夜中過ぎにならないと、多分帰って来ないだろう。

でもまあ、ひとまずはこれで
さっきまで邪魔だった荷物もなくなって身軽だし
帰りの電車までは時間がまだもう少しあるし。


「カイトー、この後どうするー?」

「えーっと・・・・」

「言われても困るか、そうだよねえ。」


映画を見るには流石に時間がないし、自分の買い物は
今ちょっとお金がヤバイから我慢我慢。


何処かでお茶でもしようか・・・・


「あ、そうだ。」

「どうしました?マスター」

「サーティーワン行こっか。
 駅の近くにあるから、休むのに丁度いいでしょ。」

言った瞬間、カイトの顔がパアっと輝いた。


「是非とも!!」


飛び付いて来る勢いのカイトに、
あ、ああそう、じゃあそうしようか、と


目の色が変わるって、こういう事だ、きっと。


それでもまあ、迷う事無く目的地も決まったのだから

良しと言えば良し、か。


「マスター、早く早く!
 早くしないとアイスが溶けます!」

「大丈夫よー、アイスが溶けないように
 お店はちゃーんと保存してるからー」


子供宜しく手をグイグイ引っ張るカイトに、やや呆れ気味にが返す。


いやあ、男性からのリードなら、もうちょっと優しく受けたいものだわぁ。


思わず遠い目をしてみたり。


そんな事も露知らずに、カイトは
「何のアイスが良いかなー」とご機嫌で。


「3種類考えといてね。」

「3つも良いんですか!!?」

「確か今、期間限定でトリプルやってたと思うんだよね。
 割引券持ってたから、折角だしソレにしちゃおうよ。」


今日は特別に、だからね?とは苦笑して言う。


「マスター!大好きです!!」


ニッコリ笑顔で、言われた。

そんな風に素直に好きとか、言われた事なんてない。


分かってる、カイトは『マスターとして』好きなんだって


だから赤くなってくれるな、自分、くそう



「・・・・・現金な奴」



それでも勝手に赤くなってしまう自分が悔しくて
八つ当たるように呟いた言葉も、ご機嫌のカイトの耳には届かない。


クルっと、ご機嫌の顔を振り向かせて、「マスター」と呼ぶ


「マスターは、何味のアイスが好きですか?」

「え?えー・・・っと、何だろう、あ、抹茶とか好き。」

「シブいですね。」

「あっはっは。
 おつまみとねぎ料理が得意料理とか言う君に言われたくないわ」

「えー、重宝されてたんですよ?家では。」

「やっぱりカイトって、天然家政夫だよね・・・・」

「はい?」

「いや、うん、いいんだよ、すごく良い事だと思う、うん。」


ワケ分かりませんよ?マスター、とカイト。

まあそうだろうね、私だってよくわかんない。

でもまあ、アレだ。

うん、気付かずに家政夫やってられたんだから、
まあ、凄いといえば凄いよね、いろんな意味で。


カイトは首をひたすらに傾げ続けるばかりで、
けれども、まあいいか、と気にしない方向でいく事にしたらしい。

・・・・きっとこれが、
未だに天然家政夫だと気付いていない理由に違いない。


「それじゃあ一つ目は抹茶で決定ですね」

「へ、何で?」

「あ、マスターも一つ目は抹茶にして下さいね」

「ん?んー、良いけど、だから、何で?」

「マスター、知らないんですか?」

「何を・・・」

「一緒にアイスを食べ合ったら兄弟なんですよ」

「・・・・・・・・・・はい?」


ニッコリと笑って言ったカイトに、思わず素っ頓狂な声を出す。


え、なに、一緒にアイスを食べ合ったら兄弟って。

そんな話初めて聞いたんですが。


・・・・ああ、もしかしてアレか、

共に盃で酒を交わしたら兄弟とか、その辺りからの派生か。


・・・・・・駄目だ、すごくご機嫌なカイトに
そんな残酷な現実教えられない。


「いい言葉ですよね、俺、最初に聞いた時ものすごく感動しましたもん」

「・・・・・。」

「アイスは偉大なんですよ?
 美味しいだけじゃなくて、お互いの絆を強くしてくれるんです」

「・・・・・・・・。」

「それにアイスには、人を幸せにする力がありますし」

「・・・・・・・・・・・・。」

「美味しいし、幸せになれるし、仲良くもなれるんですから
 俺、アイスの事がもっと好きになりそうです」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」

「だからきっと同じアイス食べたらもっと仲良くなれると思うんですよね
 って事で、・・・・ってアレ、マスター?どうしたんですか?」

「・・・・・・・・っも・・・駄目・・・・」

「はい?」


首を傾げたカイトに、けれども思わず、盛大に噴出した。

何を熱く語りだすかと思えば、だ。

アイス好きなのは伝わったけれども、
ちょっと待て、内容が可笑しい所が多々あるぞ、っと。


思ったけれども、何だか異様に笑えてきてしまって。


きょとん顔のカイトの横で、思わず大笑いだ。


「マスター?」


あれ、俺なんか変な事言いました?とか何とか。

ええ言いましたとも。
盛大に可笑しな事をのたもうておりましたとも。


「あ、はは、は・・・
 い、言ってない言ってない、気にしないでーあー面白い。」

「ぜ、絶対俺なんか言ったんですよね!!?
 何、何言いました俺!!」

「言ってないってばー、もー、気にしなくていいよー」

「気になりますよ!」

「あははは、あー、もうお腹痛いー」

「ちょっマスター!?」

「まあまあ、オーケーオーケー、抹茶ね、了解。
 さーって、あと2つ、なんの味にしようかなー」

「あ、マスター!逃げるのはズルイですよっ
 何言ったのか教えてください〜〜〜っ」


先程と変わって、今度は追いかけてくる形になったカイト。

カラカラ笑いながら、それをかわす。


アイスには、絆を強くする力があって

アイスには、人を幸せにする力がある


・・・・まあ、割と間違ってないかもしれない。


「いいじゃない、カイトと私、今日から仲良しになるんでしょ?」

「・・・なんか、馬鹿にされてますか?俺・・・」

「うん、まあ少し。」

「やっぱり!?」

「冗談、してないよ、全然。」

「・・・・本当ですか?」

「あ、信じてくれない。せっつなーい」

「し、信じます!信じてます!!」

「あはは、説得力ないなーカイト」

「本当ですよ!
 俺のマスターなんですからっ!!」


言われて、カイトの事を見る。

いつの間にか、真剣になっていたカイトの眼差しに気付いて、
ああ、本気で信じてくれてるんだ、と思う。


・・・・なんで其処まで、昨日あったばかりの人間を信用してくれるかな。


正直、不思議。


でも本当は、自分も不思議とカイトを信じているわけで、
そうじゃなくちゃ、流石に昨日、ぐっすりと何か寝ていられない。
・・・・・・・多分。


自然と、けれどもある意味不自然に形成されている信頼関係。


カイトを無条件に信頼してしまっている自分は
自然の成り行きとして、自分の意思が決めたことだと、思いたい。


「・・・ねえ、カイト。」

「はい?」

「2つ目の味、何にする?」

「・・・・・ストロベリー。」

「じゃあ、それも一緒ね。」


返すべき言葉に困ってしまって、結局出てきた言葉に、
けれどもカイトは、嬉しそうに笑ってくれた。


一番最初に私達が歩み寄った味は、

ストロベリーの柔らかな甘さと

抹茶の、切ない苦味だった