「無理、です」 「くっそう 今までに無いくらいキッパリした態度見せやがって」 言い切ったカイトを、は恨みがましそうに見る。 けれどもカイトの態度は揺るがない。 食卓に付いたカイトの目の前には、カレーが一つ。 嫌な予感はしていたけれど、やっぱり食べないコイツがおります。 カレーライス事件 「だからっ本当に辛いのは無理なんですって!!」 「だからそう言うと思って頑張って辛くなくしたんだってば!!」 野菜はリンゴジュースで煮込んだし、隠し味にチョコレート使ってるんだぞ!? しかもルーにはバー●ントの甘口だぞ!!? これ以上ないくらいに甘い組み合わせで作ってるのに それでも一口も食べてくれないとか・・・!! 切ない!切ないよママン・・・!! 「食べてくれないって言うなら もうアイス買ってあげないよ?!」 「クッ・・・卑怯ですよマスター! アイスを盾に取るなんて・・・!!」 「フッ卑怯はカイトだけの専売特許じゃないのだ」 「そ、そんな事言うなら俺にだって考えがあります!」 「な、何よ・・・・」 「俺、この間見付けちゃったんです・・・、 マスターとツーショットで写ってる男の人の写真――・・・」 「キャーーーー!! ちょっアンタなんてもん見つけてんのよ!!」 「いろんな人に流出させちゃいますよ、写真!!」 「あ、甘いわカイト!私にだって、母さんに送るために撮った カイトのあーんな写真やこーんな写真がゴマンと有るのよ!!」 「なっ、いつの間に!?」 「さあ、あなたに勝ち目はないわ!諦めてカレーを食べなさい!」 「うぅ・・・マ、マスターの鬼畜・・・!!」 「何とでも言えばいいわ!さあ食べなさい!今食べなさい!!」 「・・・・・何をやっとるか、お前等は・・・・」 「「ぎゃーーーーーっ!!?」」 唐突に割り込んできた声が余りに予想外で、 カイトとは揃えて声を上げて、前へスッ転ぶ。 振り返れば、ネクタイを緩めてリビングに入ってくる兄の姿があった。 「あ、あ、兄貴・・・!?」 「おおおおかえりなさいさん・・・!」 「おー、ただいま。 お前等元気だなー、若い若い。」 タルそうに言うに、 カイトとは未だ跳ね回る心臓を押さえる。 「あ、兄貴あの、今日カレーなんだけど・・・」 「あー、悪い、食ってきた。 つーか今日もう寝るわ、風呂明日入るから、栓抜いてくれるなよー」 「ええ!?今日の練習は!?」 「明日に持ち越しだ。 悪いな、もう今日は疲れた、勘弁しろ・・・・」 言いながら、珍しいくらいにフラフラして兄が部屋を出て行く。 何だったんだ・・・・呆然とするくらいに唐突に現れて、去って行った兄。 かなりのテンションで会話をしていたカイトとは、暫し固まる。 「えー・・・っと・・・・・」 先に呟いたのは、だ。 「と、とりあえず、一口くらい食べてみない?カレー。」 一応私も頑張ったんだけどなー・・・と、 先とは打って変わって窺うようにカイトを見る。 カイトもカイトで、 「でもあの、本当に辛いのダメなんですけど・・」と困り顔だ。 「ちゃんとご飯食べないと、アイス食べちゃダメ。」 「うぅ・・・・」 これじゃあまるで、母親が子供に言い聞かせているのと同じだ。 溜め息をついて、は立ち上がる。 既に少し冷えてきているカレーをスプーンにすくって、 一口、カイトに差し出した。 「はい。」 「・・・・・・・はい?」 同じく立ち上がったカイトが、そんなの行動に目を丸くする。 カレーを差し出すは、困ったようにカイトを見上げていた。 「一応味見したけど、本当に殆ど辛くないんだよ?」 「・・・・・・・。」 「私も昔辛いのダメだったけど、この作り方のなら食べられたし・・・ やっぱりこういうのってお手軽だから、重宝するし・・・」 食べられるにしろ食べられないにしろ、これからも多分 カレーは食卓に登場するだろうし。 だったら一口くらい試してみるのも、手と言うものだ。 はいっと、はカレーを差し出す。 カイトは、目の前のカレーをグっと見つめる。 「あ、あの、マスター」 「ん?」 「あの・・・・いえ、やっぱり、良いです・・・」 何か言いかけたものの、カイトは結局 諦めたように肩を落として、止める。 それから、意を決したように、拳を握った。 「マ、マスター」 「何?」 「・・・・いただきます」 言って、の差し出すスプーンを銜える。 ギュっと目を瞑って、カレーを噛みしめるようにして。 心配そうに見上げるに、けれどもカイトは喉にカレーを押し込んで 意外そうな顔で自分を見つめ返してきた。 「あの・・・食べられました。」 「ホラ御覧なさいな。」 あんな大騒ぎする必要なかったでしょ?と首を傾げれば 「嫌いなものなんでやっぱり心の準備が・・・・」と口篭るカイト。 「ご飯、ちゃんと食べる?」 「・・・・食べます。」 言ってカイトは、 まだ何処となく釈然として無さそうながらも椅子に座って。 それからフっと、まだその傍らに立っていたを見上げて笑んだ。 「マスター、」 「な、何・・・・」 「俺からもしましょうか?」 「はい?何を・・・・」 「あーんって。」 言われた言葉に、は固まる。 言われて見れば、色気も何も無い流れだったけれども あれって・・・・そういう・・・・・ いやでも何か違う! あれってどちらかと言うとお母さんが子供に食べさせてるみたいな! そんな「ハイ、あーん ![]() カイトに思わぬ指摘をされてシドロモドロになっていれば カイトはスプーンでカレーをすくって、此方に差し出してきて。 「い、いや良いよ!私カレー普通に食べられるし!!」 「やって貰ったらお返しが必要なんですよ、マスター」 「違っ・・って言うかなんかこれじゃあ目には目をの方が近い! ハムラビ法典万歳ですかコノヤロー!!」 言って騒いでみるけれど、カイトは凄い良い笑顔だ。 ちょ、あれ? 何か変なバグ起こしてません、カイトさん? 「はい、マスター。あーん。」 ズイっと目の前にまで持ってこられて、 は暫く迷った後に、先程のカイトと同じように 諦めたように肩を落として、そのスプーンのカレーを喉に押し込んだ。 「・・・・・・甘い。」 思わず呟いたその言葉に、カイトは 「俺が食べられるように作ってくれて、有難う御座います」だそうで。 何だかしてやられている様な気分になりつつ 口に押し込んだカレーは、いろいろな意味で甘かった。 |