「うーん・・・・・」


が、唸る。


「うー・・・ん・・・・」


が、唸る。


「ううーん・・・・・・」


が、唸る。


「ううーんん・・・・・」


が――・・・



「あのー・・・マスター?」


「え、あ、なに?」



カイとに声を掛けられて、ハっと我に返る。


気付けばカイトがかなり怪訝そうな顔で覗き込んでいて、



「何はこっちの台詞ですよマスター。
 どうしたんですか?そんなに唸って・・・・」


「あー・・・・いや、うん。」


言われて曖昧に視線を逸らすに、カイトは尚の事怪訝そうで


「ねえ、カイト。」

「はい?」

「今日、何日だったっけ?」

「今日?18日ですけど・・・」

「はあ・・・あと一週間・・・・」

「?」


カイトがいよいよ解らない、と首を傾げて、
けれどもはあくまでも自分の世界だ。


唐突に立ち上がったかと思えば、
愛用している財布を開いて、やはりまた唸る。


何が一体どうしたって言うんだ。


「マスター?」

「んー、うんー・・・・」


呼びかければ、気のない返事をして、また溜め息。


それから、ようやくカイトの方にしっかりと向き合ったかと思えば
は至極真面目な顔をして、言った。



「カイト。」

「は、はい?」

「一週間、アイスなし。」

「・・・・・・・え」

「ごめん給料日前で流石にきつい、金ない。」

「えええええぇぇえぇえっ!!!?」



盛大に、カイトが叫んだ。





一週間の始まり











「あー・・・。」

「はいはい、何で御座いましょうか兄様や。」

「あ、兄様って・・・
 いや、っていうかアイツは一体どうしたんだ・・・」


が顎で、カイト指す。

が言うカイトは今現在、ソファの上で・・・・ポックリ逝っていた。


は切り終えた野菜を皿に盛り付けながら、
チラリとカイトを見やって、肩を竦めた。


どうしたどうした、ケンカでもしたか?と
そんなを気にしつつも、カイトの方に向かってみて、固まる。



何か、何、何か・・・・うん。



アイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイスアイス・・・・・・



グルンっと、一気に向きを変えた。


ーーーーー!!!おまっ本当に何したんだお前・・・!!
 何か、何かアイツ壊れてる!!って言うか何かが可笑しい!
 呪ってるぞ、なんか呪われてるぞ!!!」


「そんな事言われたって仕方ないじゃん!
 私だって金欠なんだし!
 いくらなんでも給料日まで二千円は残しておきたいの!」


ああそうだよ本当にピンチだよ!!とか何とか。


言われて首を傾げたに、一から十まで状況を説明すると
は「あー、なるほど」と、どうにか納得した様子だった。


「そっち関係は持ちだからな。
 俺からは一切出してやる気ないし。」


「分かってるってば、だからカイトにも言ったんじゃない。」


こういう決まり事は、一度ルーズになると
その後も引きずる事になる。


だからキッチリそこに境界線は引いてあるのだ、一応


「けど、納得しないわけか?アイツは。」

「いや、納得はしたのよ。」

「は?」

「納得はしたけどショックは大きかったみたいで。」


それでも、散々あっちも渋ったのだ。


一日一本も駄目ですかーとか

せめて真ん中に一つだけでも買ったら駄目ですかーとか

最後に一つだけ食べたいですーとか・・・・


それ等を全て却下した結果が、あれだ。


いや、最終的にはちゃんと納得してくれたのだ。


「マスターが言うなら、俺頑張ります」と。


納得してくれたはずなんだけど、な。


夕飯の準備をしようと共にリビングに降りてきた途端
コテンっとカイトはソファに横になり・・・・


そのまま、動かなくなった。



は溜め息をつく。


「兄貴、ちょっと夕飯の残りお願い。」

「あ?あー・・・・わーったから、さっさと行って来い。
 おれ、流石にあれは怖い・・・」

「兄貴が言うのはよっぽどだ」


思わず苦笑を零してから、付けていたエプロンを外す。


それと入れ替わるように兄がキッチンに入ったのを確認してから
は、ソファでぐったりしているカイトに近寄った。


「カーイトっ。
 まだ元気ないわけ?」

「・・・マスター・・・・」


うわ、なんか真っ白になってる。

そんな顔されて見上げられても、困ると言うもので。


「一応、分かってはいるんですけど・・・」

「ん?」

「やっぱり、ショックでかいです・・・・」

「うんー・・・」



でもダメね。

は言う。


はい・・・とショボくれたカイトの声。



「お給料入ったら、好きなアイス買ってあげるから。」

「・・・・・ドルチェ・・・・・・」

「・・・・まあ、仕方ない。」



一瞬高いなーと顔は顰めたけれども。

まあ、給料日後なら・・・どうにか。


「そんなワケで、はいっカイトももう元気になる!
 ご飯になるよ、お手伝いして!」


「え、あ、え!?は、はい・・・!!」


ペシンっと、痛くないだろうくらいにグッタリしていたカイトの身体を
かるーく引っ叩いて。


カイトはハっとした様に慌てて起き上がり、
勢い余ってソファからずり落ちた。


「・・・・時々ドン臭いよね、カイト・・・・・」



人の事、言えたギリでもないけれど。



「か、返す言葉も無いです・・・・・」


すみません、と。

力ない声で答えを返して。


かくして一週間。


カイトのアイス断ちが始まった―――