『それ』の存在にカイトが気付いたのは、
が家を出てから、約1時間くらい後の事。


今日は水曜日で、午後の二限目に聖書を使う授業があるとかで
今回はこれを忘れると、担当の先生からいんぐりもんぐりの刑なのよ〜とか何とか。


よく分からない事を言っていた、その矢先の事だった。


「・・・・・マスター、その聖書を思いっきり忘れてってるんですが・・・・・」


忘れないようにしなくちゃ!とか言ってテーブルに置いたまま
思いっきり忘れている彼女に、思わず息をつく。


さて、彼女の言ういんぐりもんぐりが
一体どういうなのかは知らないが――・・・・


「届けた方が、良いのかなあ・・・・・」



の忘れていった聖書を片手に、カイトは頭を掻く。


とりあえず、彼女が困るのだけは避けたいし。


カイトは一人頷いて、とりあえず届けることに決めた。






彼女を探して三千里










カイトは一人、息を吐く。


まさか、彼女の学校に来るのがこんなに大変だなんて思わなかった。


普段はが一緒にいて、車に乗せてもらって駅まで行ったり
電車に乗るのも、彼女が率先して歩いていたから、
この辺りを自分一人で行動するなんて事は初めてで。


しかも良く考えたら、ただ、先日買い物に行った所が大学の近くだと
聞かされていただけで、彼女の学校の詳細な場所は知らないし。


でもまあ、聖書を使うような学校だからキリスト系だろうと予測をつけて
例の駅で人に聞けば、割とあっさり、学校の名前自体は判明した。


そこからの道程がまた面倒で。


乗るバスは間違えるし、しかも乗り過ごすし、
道中道を聞いたら、教えられた道自体が間違っていたりと散々だ。


前者は自分が悪いなんて聞こえない。絶対に聞こえない。


そうこうして、現在。


どうにか、それらしきモノの門の前に、立っていた。


・・・・・・・立ってはいた、けど



「こ、これから、どうしよう・・・・・」



よくよく考えてみれば、この中からどうやって探せば良いんだ。


って言うか、この中のどの建物に居るんだ。


・・・・同じようなレンガタイルの建物が、いくつか並んでいる。



と、とりあえず正門(らしき所)から直結してる建物で良いのかな

誰かマスターの知り合いに会えないかな。

心優しい誰かさんが助けてくれるとかいう展開有り得ないかな。

っていうかひょっこりマスターが見つかるミラクルってないのかな。


門の前でウロチョロしながら、考える。



その横を、やけに此方を気にしながら通り抜けていく女学生達。


・・・・あ、ヤバイ。

自分、もしかして怪しい人になってる・・・・?



「と、とにかく、虎穴にいらずんばですマスター!」


いや、マスターここに居ないけれども!



自分も男だ、腹を括れ、とカイト。



いざ尋常に、勝負・・・・・!!!



思ってグっと足に力を入れる






「うわーっうわーっすっげー!!
 青い髪だ!しかもすげーナチュラル!!リアルカイトっぽい!!!」

「ちょっ!声デカイ!!もっと小さく!」



絶対アレ本人に聞こえてるって!!と、押し殺した割りによく聞こえるもう一つの声。


リアルカイトって・・・・


自分、カイトですけれど。


思わず振り返って、背後に居た2人の女学生の姿を捉える。



「ちょっ、待って待って、写メらせてもらえないかな!?
 後でに見せる!絶対喜ぶ・・・!!」


「だ、!ただの変な人になってるから!!」


うわー、助けて〜!!と、酷く騒いでる子の隣にいる子が言って。


・・・・・・・



「あ、あ、あの、すみません・・・!!」


「「へ?」」


唐突に声を掛けられて、流石に固まった2人。


けれども、カイトはめげない。


めげずに、言った。



「マスター・・・・さんの事、知ってるんですか!!?」



言われて、顔を見合わせた2人は、暫くの後に同時に頷いて。


・・・・・・神様、ミラクルをありがとう・・・・・・!!






















「・・・・うげっヤバイ・・・・!!」


昼休み。


は自分の鞄をあさりながら、顔をしかめた。


隣で、ヒロがどうしたー?とか覗き込んでくるのを
は、サァっと血の気の引けた顔で見やった。


「聖書忘れた!!!」

「うっはーやっちゃったねえ、いんぐりもんぐりだ。」


ヒロがケラケラと笑い飛ばす。


いんぐりもんぐり・・・・


それは両の拳で米神をグリグリする、某国民的人気アニメで有名なあの技の事。


それが何故か、この学校ではいんぐりもんぐりと呼ばれているわけで。


通称なのか何処かの方言なのかは知らないが、
この学校でキリスト系の授業で持ち物を忘れた罰として有名だ。


はうあー・・・と項垂れる。



「やっばいぃ・・・・授業休むかな・・・・」


「コラーちゃんと出れー」


「あーもー、朝ちゃんと忘れないようにテーブルに置いといたのにー」


「はは、良くある良くある。まあ、腹括るんだね」


「やーだー、括れないー」


もうこのまま家帰ろうかなーとか。


が机に突っ伏して。

ヒロはしばらく笑っていたが、フと気付いたように顔を上げる。


「あ、おはよーー悠姫ー・・・・・と・・・・・?」


そこで、ヒロの挨拶が止まった。


何だ何だ、午後から登校組に何かあったのか?と
は顔を上げて、同じように、固まる。



と悠姫が、微妙に緊張の面持ちで此方を見ていて
その後ろに、見慣れた青い髪の男。


「・・・・・・・は」



二の句を継げなかった。


え、だって何でヤツが此処にいるの?


家で大人しく待ってるはずじゃないの


って言うか、アレ?


「カ・・・・カイトオオオォォ!!!?」


思わず叫んで、学生ホール中の注目を集めた。


が、そんな事は気にしていられなくて。


思わず立ち上がったに、ヒロと悠姫がギョっとする。


そして―――・・・


「マスター!!良かった会えましたーーー!!!」

ーーー!!一体全体どういう事だーーーーー!!!」

「ちょおおぉ!!?」


カイトとが、そんなのところへ勢い込んで飛びついた。