真夜中のコンビニ 憂鬱な雨が降る、6月。 外では今日も、雨が降っている。 雨の音を聞きながら、 は読んでいた雑誌を一つ捲る。 「マスター、アイスが食べたいです」 カイトに言われて、えー?と渋る。 今週分のアイスは、まだ買い足していない。 「アイスを買いに行こうとか、そんな事ですか。」 「はい」 「この雨の中、外には出たくないなー」 明日じゃダメ? 尋ねるけれども、カイトもカイトで渋り顔。 まあ、買い足し忘れた自分も悪いのだけれども。 どうしようかなーとか思いながら、雑誌をまた捲る。 と、一つ爆音がして、車のライトが庭先にはいって来た。 「あ、兄貴が帰って来たかな、」 「今日は随分遅かったですね、さん。」 「んー・・・・嫌な予感がするなぁ・・・・」 言ったに、カイトは首を傾げていたけれども こっちとしては、嫌な予感が過ぎる。 最近は、収まってたんだけどなぁ、兄貴。 玄関の扉が開いて、同時に聞こえてくる、兄の声と女の声。 聞いた事のない声・・・また遊びか。 変に作ったような甘い声が耳に付く。 「ただいまー」 「・・・・・おかえり」 「おかえりなさい、さん」 嫌そうに返したを気にした様子も無く は2人におう、と返して 「悪いなカイト、今日の練習はナシだ。」 「ええ!?」 「何だ、お前もおねーちゃんと遊びたいのか?」 ニヤニヤと聞いてくる兄に、カイトは顔を赤くして「結構です!」と強く断った。 色の無い奴だなぁ、と。 お前は色がありすぎるんだ、とか言いたくなってもみたり。 「んじゃ、俺上行くわ、じゃーな。」 「はいはい、」 ヒラヒラと手を振って 閉まりかけの扉から、ヤケに短いスカートを履いた いかにも軽そうな感じの女の後姿が見えた。 ・・・・・兄貴、趣味悪・・・・・ 「・・・・・カイト、コンビニ行こ」 「へ?」 「1時間・・・・ちょっと位時間潰せば良いかな。 歩きだけど、良いよね?」 「あ、あの、マスター?」 どうしたんですか?急に・・・・とカイト。 は嫌そうに、首筋に手を当てた。 「この家、音と声が響くのよ。」 「はい?」 「あー、まあ良いから良いから」 行くよ、と。 慌ててその後ろに着いて行く。 玄関を出ようとした時、女の甘ったるい声が聞こえてきて。 が言おうとしていた事が、ようやく分かった。 これは・・・・確かに家には居にくい・・・・。 「ハイ、カイト、傘。」 「あ、はい。」 が差し出すビニール傘を一つ受け取って、 強い雨脚の中へと飛び出した。 家から歩いて約15分の所にあるコンビニ。 そこは、のバイト先に当たる。 けれども、今までカイトを連れて来た事は無い。 ・・・・格好がアレだから、イロイロと目立つしね・・・・ 今日もあの格好だけれども、この際もう仕方ないと思って諦める。 どうせ、家から一番使い勝手の良いコンビニは此処だし あの家に住んでれば、嫌でも使う事になるだろう。 コンビニの中に入ると、クーラーの乾いた風が包み込む。 外のジメジメした感じより、ずっと良い。 「いらっしゃいませー・・・ってアレ? ちゃんだ、今日シフト入ってたっけ?」 丁度入り口付近で掃除をしていたらしい従業員が 言ってこちらに近づいてくる。 少し暗めの茶という、シックな色をした髪。 落ち着いた雰囲気はしているが、何処か軽そうな笑みを向ける男。 「あ、こんばんは。 いえ、今日はただの買い物です。」 「今日は車じゃないんだねー」 「あはは、ちょっとあって」 は苦笑して答える。 男はヤケに親しそうにに話しかけてきて、何となくムっとする。 「それにしてもちゃーん・・・ またあの・・・個性的な格好の人連れてるね・・・」 コスプレ?と続く男の言葉に 違います、と割と強めの語調では答えた。 「なになに、まさか彼氏?」 「・・・・・居候です」 聞いてくる男に、は明らかに迷惑そうで それでも男は気付いていないらしい。 へー、そうなんだーとか、会話を続ける気満々だ。 「・・・・大沼さん、ちゃんと仕事してください。」 大沼、とが呼んだ男は笑いながら、「ちゃんマジメだなー」とか何とか。 いや、迷惑なんです気付いてくださいとは流石に言えない。 「レジ、混んで来てますよ。」 くそ、後で店長に言いつけてやる、とか思いながら言えば あ、流石にそれは不味い、とか言って、長蛇のレジの方に消えていった。 ようやく、これで買い物が出来る・・・・。 「・・・しまった・・・まさか大沼さんが 今日シフト入ってたとは思わなかった。」 「・・・・いつもあんな感じなんですか?」 「うん・・・・最近やたら絡まれるけど」 歳近いせいかな・・・と。 ・・・さんのウソツキ、疎くは無いって言ってたじゃないか、とか 思ったりした事はとりあえず内緒にしておいて 「・・・此処で1時間も時間潰すの、ちょっとキツイかな・・・・」 「あのー、早めに帰りません?」 「・・・今帰ったら、多分真っ最中だけど。」 流石にもう、「何の?」とも聞けない。 そしてそれでも早く帰りましょうとも、言えない・・・ 「え、ちゃん一時間くらい居るの?」 「いえ、いません帰りますから。」 レジ仕事を終えて帰って来たらしい大沼に、は即答した。 いやもう、むしろ帰ってこないで下さい。 明らかに嫌がるに、気付かない大沼を なるほどこれがKYか・・・な気分でカイトは見守って。 「カイト、アイス買って早く帰ろ」 「あ、はい」 「箱2つ・・・と、あと特別、好きなアイスひとつ買って良いよ。」 「本当ですか!?有難う御座います、マスター!」 「・・・・マスター?」 「・・・・・あだ名です気にしないで下さい」 ニッコリと笑って、は言った。 ああもう、一々近くに居るから話がややこしくなる。 「そう言えば、明日ちゃん、俺と一緒にシフト入ってたよね」 「・・・・マジですか・・・・・」 「うん、西野さん来るまで2人だから、頑張ろうね」 うわぁ、明日休みたーい・・・・ はゲッソリと、溜め息をついた。 |