カーテンが、ゆらりと揺れる。 梅雨も明けて、辺りは夏の香りを深めた。 そよりと吹く夜風が、気休め程度に肌を冷やすが、正直言ってあまり効果は無い。 夏の夜は、正直蒸す。 諦めてクーラーでも付けるか・・・ 溜め息を一つ吐いて、クーラーのリモコンに手を伸ばし掛けた所で、 携帯が、最近のお気に入りの曲をけたたましく鳴らした。 誰だろう、この音楽は、電話のはずだ。 目的をリモコンから携帯に切り替えて、手を伸ばし開くと、 見慣れた名前が液晶に映っていた 確認すると同時に、躊躇いなく通話ボタンを押す 「もしもーし、ヒロー?」 『あー、ごめん急にー』 「いやいや、構わないけど」 どうかしたー?と 電話の向こうの彼女に問いかける。 ちょっと頼みがあってさあ、と、電話越しに困った声が聞こえてきた。 『この間民俗学で休んだ所のプリント、コピーさせて貰って良い?』 「あー、そっか、この間いなかったもんね。良いよ、別に。」 それを了承してから、あっちょっと待って、と 机の上に広がっていたプリント類を引っ繰り返す。 「私もこの間国語表現休んじゃったんだよね。 多分プリント8だと思うんだけど・・・・そっちコピーさせて貰って良い?」 『プリント8−?いいよ全然ー。 じゃあ、明日持って行くからー』 「りょうかーい、こっちも明日持ってくね」 『恩に着ます。んじゃ、また明日ね』 「はいはーい」 軽い返事をして、電話は向こうから切れた。 耳から話しても未だ聞こえる切断音。 電源ボタンで、強制的に途切れさせた。 溜め息を、吐く。 開かれた愛用のノートパソコンには、ぎっしりと文字が埋まっている。 レポート作成はまだ慣れないが、 どうにかこうにか、もう少しでこの課題も終わりそうだ。 夏の深まる、7月末 期末テストの勉強が、追い込みだ。 憂鬱の二週間 携帯をベッドに投げ出して、疲れた溜め息を吐いた。 普段のらりくらりとやっている分、しっかりきっちりなこう言う時間は苦手でならない。 いい加減パソコンとのお見合いにも疲れてきて、 掛けた眼鏡を一度外して、目元をほぐした。 カイトは今、の部屋に居る。 一人っ子なら兎も角として、兄弟がいる身ともなれば、別に 雑音を気にせずに勉強くらい出来るような体質になる。 けれども、やはり同じ室内に人が居るとなれば話は別で。 が帰宅してから、夜0時まで カイトには、お願いしてリビングかの部屋へ行ってもらう様にした。 彼も渋々ではあったが、マスターの頼みと有らば・・と、納得してくれたようだった。 申し訳ないけれど、仕方ない。 特にレポートを提出して単位が認定となる教科は結構多くて 自ら文章を考えるとなると、気が散るのは中々に致命傷なのだ。 筆記に備えて勉強する方が、幾分かマシな気がしてしまったり、なんて・・・・ 今日はもう、歌の練習も終わったのだろう。 隣の部屋は割りと静かだ。 そろそろ0時。 今日のタイムリミッドが近い。 は再びパソコンと向き合って、 目がチカチカしてきそうな程の文字が占めるディスプレイを見つめた。 とりあえず、心理学のレポート あと最後の一文だけ、記入して終わりにしてしまおう。 そう、キーボードに手を乗せ掛けたところで、タイムリミッド。 同時に、部屋の扉がノックされる。 くそう、素早い奴め・・・・ 「あの・・・マスター?」 扉越しに声を掛けられる。 は逡巡した後に、ちょっと待って!と声を張り上げた。 「あと5分!もう少しでレポート終わるからっ」 「・・・・・・・はい」 しょぼくれた声が聞こえる。 扉の近くで衣擦れの音。 すぐそこに立っていて、ウロチョロしてるのか うう、気がそっちに向く・・・・ 思わず怒鳴ってやりたい衝動に駆られながらも、それは押さえ込む事に成功して どうにか最後の一文を打ち込むために、指先をキーボードに躍らせる事が出来た。 よし、とりあえず心理学のレポートは、出来た。 心理学の他に、レポートで認定の教科は4つ。 その内2つはもう出来ているから、 あと2つ完成すれば、筆記の集中勉強に移れる。 ああ、長い道のりだなあ・・・・・ 「カイトーごめんね、良いよ、入ってきて」 声を掛けたら、待ってましたと言わんばかりに、勢い良く扉が開いた。 同時に、扉が開いて抜け道が出来た為に、部屋を一陣の風が巡る。 慌ててプリント類を抑えて、惨事になる事はどうにか避けた。 危ない危ない。 「お疲れ様です、マスター」 ニコリと微笑みかけながら、カイトが言う。 はうんーと曖昧な返事をしながら、今し方出来上がったレポートを USBメモリーに移してパソコンの起動を終了させる。 普段はヘビーユーザーだけれど、この時期だけは、パソコンを見ると憂鬱になる。 特に何処かのサイトを見るわけでもなく、パソコンをそのまま閉じた。 「勉強は順調ですか?」 「あー・・・今のところはね。筆記も、資料持込可の授業結構あるから、 そこまで必死になって暗記も必要ないし」 とりあえず、大ボスはレポートだ。 1日1つは終わらせるペースで行きたい。 あと2つ。 頑張れ自分。 「・・・・・大丈夫ですか?」 「ん?」 「目の下、クマになってますよ」 「んー・・・・最近夜更かししてるからねえ」 肌少し荒れてきたなーと、自分の頬を触りながら言う。 所々に、どうしても出てきてしまう吹き出物。 自分ももう、若くないなあ・・・・ 「・・・・頑張ってくださいね、マスター」 「もちろん、それが終われば夏休みだしね」 それに、テスト期間自体は、始まってしまえば意外と楽。 大変なのは、テストに入る前の準備期間。 憂鬱な2週間は、始まったばかり。 |