「エール」 時々、フと 頭の中が真っ暗になってしまう事がある。 つい先程まで、頭の中で駆け巡っていた言葉達が、 一瞬の間で、先程までの事が嘘みたいに静かになる。 言葉はポっと浮かんでは消え、掴もうとした時には、何も見えなくなってしまって そんなサイクルに入ると、やる気が無くなる は、作りかけのレポートを前に、深い溜め息を吐いた。 これでレポート作成は最後なのに 1日1つのペースで、なんて言っていたのは果たして誰だったか この最後の砦に、既に3日を掛けてしまっていた。 何となく仰いだ時計は、まだ勉強時間がたっぷりある事を 定期的な音と共に伝えている。 けれど、どんなに時間があったって、文章が、浮かばない。 大ボスは、やっぱり大ボスなのだ 「ああーもー」 今日はもう、止めにしちゃおうかな。 この数日間、結構頑張ったし。 寧ろ褒めてよ、このぐうたらが此処まで頑張ったよって。 カイト呼んで来て、今日は勉強お休みにしたから、一緒にアイス食べよ、とか。 言いたい。 逃げる事の誘惑は、一度出てくると中々振り払えない。 そうじゃないでしょ、自分っと頭を振って気持ちを切り替える。 逃げる事は簡単だけれど、絶対後で後悔する。 分かっちゃいるけど、やっぱり魅力的 ああもう、 「先にお風呂でも入ってこようかな・・・・」 こういう時は、リフレッシュって必要だ。 気分転換がてら、本当に行って来ようかな 思って、重たい腰を持ち上げる その時、隣の部屋からキーボードの音が一つ。 あ、カイトの歌の練習が始まるんだ。 持ち上げかけた腰を、中腰のまま、止めた。 お風呂に入るより、カイトの歌を聞いてる方が、良いかな。 どうだろう、少しカイトの歌を聞いてから、お風呂に行こう、そうしよう。 これも逃避の内に入っちゃうのかなぁとか思いつつも、 まあ、働かなくなってしまった頭を無理に働かせた所で、ロクな事にならんだろう。 結論付けて、再び腰を据えた。 カイトの心地良い声が、聞こえてくる。 「アレ?」 ・・・・・聞き覚えのある曲――― 兄貴、打ち込みでやったのか。 この歌の調節をしている所は、聞いたことが無い。 それに、これって・・・・ 「また、ベッタベタな所で来たな、兄貴め・・・・」 聞こえてくる歌に、苦笑を込めた。 ZARDの負けないで。 応援歌としては、王道も良いところだ。 カイトの声が、丁寧に音を撫でて歌う。 相変わらずの、気持ち良い歌声。 唄っているのは、カイト 唄わせているのは、 詰まる所、お2人からのエールって所だろう。 まあ上手くタイミングを見計らってくれたものだ。 ――― さて、 「・・・・仕方ない、か。」 お風呂は、後回しだ。 レポート、また書き出せそうな気がする。 「マスターっ大丈夫ですか!?忘れ物ないですか!!? ハンカチはっティッシュは!!!?」 「あー、持った持った、持ちましたよちゃんと」 お前は私のかーちゃんか・・・・ 呆れた面持ちで、玄関先まで見送りに出るカイトに言う。 2週間が過ぎ、期末試験はいよいよと当日だ。 これで単位落としたら、大変なことになる。 一応2週間、頑張った、自分。 あとはこの一週間が終われば、解放される。 お母さんモードのカイトは、朝っぱらから 「カツ丼にした方が良かったですかね!!?」と慌てた様子でのたもうて。 お受験に行くわけでなし、んな阿呆な 寧ろ胃が痛くてテスト処でなくなるから止めてくれ、と丁重にお断りした。 本当に、勘弁して欲しい。 「頑張ってきてくださいね、マスター!」 「うん、頑張ってきますともさ」 「どんなに離れてても心は傍にいますからね!」 「あれ、なんだろうその既視感。」 何処かで聞いたことあるなーと遠い目。 カイトは、頭を掻いて笑ってる。 何だ、このお茶目さんめ★とか言って欲しいのか。 ・・・・駄目だ、キャラじゃない。 「テスト終わったら遊べるぞー」 さて、いざ出陣! 拳握って初めの一歩を踏み出した。 |