闇になりきれない闇。 祭りの夜の空は僅かに朱い。 その空に、一筋の白い煙が一直線に昇り、 パッと微かに弾ける音と共に、夜闇に明るい花が咲く。 一足遅れてドーンっと、腹の底に響く音がして 近くにいたおっさんが、酔っ払ってるのか「たーまやー」なんて 声を上げるのを、とカイトは、思わず顔を見合わせて苦笑した。 「でも良かったね、良い場所が取れて。」 「ですね、マスター、途中で本当に迷子になるんですもん」 「うっ、未遂!一応未遂だったよ!!」 あの後、カキ氷を買った時に離した手が災いして 一度、カイトとははぐれた。 フと人がはけた時に、道の反対側にいたをカイトが見つけて 結局は、道の左右に流されただけ、だったらしいが。 「合流した時に泣きそうだったのは どっちかって言うとカイトだったじゃん。」 「な、泣いてはいませんよ」 「でもちょっと涙目だった」 「・・・マスターの見間違いです」 「あ、ずるーい、自分の時だけは誤魔化そうとするー」 「マスターだって誤魔化したじゃないですか」 むーっと膨れてカイトが言う。 だって負けずに膨れていて、何だか話が平行線だ。 それでも、今度こそはぐれない様に、と繋がれた手は離されなくて 結局は戯れているだけなのだろう事はお互い一応理解している。 その時、またパっと花火が一輪夜空に咲いて 次いで幾つもの花火が上がる。 今年の花火は、またいつもに増して気合が入ってるな、 フと見上げた大輪は、黄金の光になって枝垂れ落ちる。 「ふわぁ・・・きれー」 「マスターのほうが綺麗ですよ?」 「・・・カイト、幾らなんでもそれは引く。」 「ああ、やっぱりですか」 ただ言って見たかっただけなんですけどね、と苦笑するカイト。 それにしても、リアルにそんな事言ってきた奴初めて見たわよ、と は呆れた様に言って。 「でも本当に」 「ん?」 「いつもと雰囲気が変わって、綺麗ですよ」 「・・・・普段から綺麗なんですよーだ」 今度こそ真面目に言われてしまった言葉に、おどける様にしてかわせば カイトはんー・・と悩みこんで。 「普段は綺麗より可愛いの方が合ってますよ、」 「・・・・・・・・・。」 何かと思えば、そんな事を言い出す。 しかも至極真面目に、だ。 なんとも反応のしようが無くて困っていると 隣の酔っ払ったおじさんが、またしても大声を張る。 「かーじやー!!」 その声に、カイトとは再び顔を見合わせて。 それを言うなら鍵屋だろうと、思わず苦笑を合わせてしまった。 夜の花 花火も終わって帰り道 最初に言っていた通りに、今日の夕飯は縁日の物で済ませようと 適当なお店に並んでたこ焼きだの焼きそばだのを買って。 フと目に入った、縁日には良くあるアクセサリー屋。 そこにだけ、ローティーンからハイティーン位までの 若い世代の子が群がるようにいる。 素朴な感じの出店が並ぶ一体の中で また違う雰囲気を放つ、そこに興味を示したのは、珍しくカイトの方だった。 「少し、見て行きません?」 「ん?うん、良いけど」 珍しいね、と言いながら、人ゴミを横切りカイトと並んで出店を覗く。 人気キャラクターのピンバッチが並んでいたり 無造作に掛けられた、安めのネックレスの数々。 ちょっとした指輪なんかが並んでいたりして、 お祭の出店としては、ごくごく一般的だ。 割と若いお兄さんが、店番をしている。 いらっしゃいませーなんて、店を覗きに来た2人に気付くと声を掛けた。 「あー、昔よく買ってたなあ、こういうの」 「そうなんですか?」 「うん、仲の良い友達とお揃いにしたりしてさ。」 どうせだし、何か買ってこうか?と首を傾げるに あ、良いですね、なんてカイトも割りと嬉しそうで。 フと、唐突に店番をしていたお兄さんがひょいっと近づいてきた。 「カップルに人気なのだとこの辺だよー」 良かったらどう?なんて勧めてきたのは、 縁日独特の安物のペアリング。 とカイトは思わず破顔してから、慌てて両の手を振った。 「ち、違います違います! えーっと、友達!恋人じゃないっす」 そんなもの勧められても困る!と言ったに え、そうなの?とお兄さんは驚き顔だ。 そんな顔されても、コッチが困る。 「仲良さそうだったから彼氏かと思ったよー。 それにしてもお兄さん、髪の色かっこいーね」 なにで染めたの、とか聞いてくるお兄さんに カイトもタジタジ顔で「地毛なんです」とだけ答えて。 縁日のお兄さんは尚の事目を丸くしていた。 「んー、んじゃあ仲の良いお2人には、この辺りなんてどう?」 しっかり商売するつもりで差し出してきたのは、 シンプルなシルバーのプレートブレスレットで。 けれどもプレート部分がいやに寂しいソレに、カイトが首を傾げると お兄さんはカラカラと笑った。 「プラス100円で文字入れしてるんだよ、此れに。 お互いの名前彫ってさ、」 「へー、100円でしてくれるんだ」 他のお店に比べると安いですねーとが意外そうに言うと お兄さんはまあね、との事で。 「これにする?カイト」 「あ、はい。」 それじゃあ、とカイトも笑んで返し、 じゃ、これ2つ下さいとがお兄さんに言うと、まいどーなんて快活な声。 元気なお兄さんだなあと思う。 「名前は?」 「あ、カイトとです」 答えたに、お兄さんは慣れた手つきで、 機械を使ってシルバープレートに文字入れをして行く。 出来上がったソレをはいと2人に渡して、差し出された料金を受取った。 「俺毎年この辺りにお店出してるからさ、 良かったらまた来年来てねー」 「あはは、覚えてたらまた覗きに着ます」 言って、ヤケに賑やかなお兄さんのお店をあとにした。 少し人込みから外れた所に入って、はカイトに、 作ってもらったばかりのブレスレットを手渡す。 早速付けようとしたけれども、何とも自分ではやりにくくて。 「付けてあげようか?」 最終的に聞いてきたに、素直に甘えることにした。 器用な手付きで自分の腕に、シルバーのブレスレットを装着すると 彼女は同じようにして、カイトの腕にブレスレットを引っ掛けて。 お互いの腕で、鈍く光るそれを、見つめる。 それから、グっとカイトに自分の腕を見せるようにして、笑った。 「えへへ、お揃いー」 言ったの表情は、やはりいつもに増して幼げであって 綺麗とも可愛いとも判断の付かない、それでも間違いなく、目の前の彼女は綺麗であって 彼女の顔の横で光る、自分の名前が入ったブレスレット。 自分の腕には、彼女の名前が光っている。 「・・・・ですね、」 大切にします、と 明るい闇色をした空の下で、彼女に微笑みかけた。 |