「夏休みの醍醐味と言えば、海でしょう!」


夏休みに入って一週間


ことの始まりは、からの唐突な電話で



大学の友人に、カイトも加えて、




一泊二日



夏休みを満喫するために、遊び倒す事になった。




「カイトー、ちゃんと水着とか持った?忘れ物は?無い??」

「バッチリですマスター!
 ビーチボールと花火も持ちましたよ!!」

「私よりも準備万端じゃないの・・・・」


目を輝かせて答えるカイトに、半ば呆れては返して。


って言うか、何故大学の友達と遊ぶのにカイトが同行するのか
としては当然疑問に思う所ではあったのだけれど

友人3名達ての希望により、反論を許す間も無く同行決定になった。


まあコチラとしても、カイトを一人家に残して行くよりは
よっぽど安心だから、良いと言えば良いのだけれど・・・・



「ねえカイト、ひとつ聞いても良い?」

「はい、何ですか?」

「その・・・カイト、平気なの?」

「はい?」

「えーっと・・・潮風とか、海水とか?」


普段お風呂は利用しているから、水には強いらしいけれども
一応コイツ、機械なんだよなあ・・・とか


少し疑問に思って聞いてみれば、カイトはきょとんとしてから
ニッコリ笑って頷いて見せた。


「大丈夫です!防水加工はバッチリですから!!」


潮風と海水にも負けないですよ〜とか


聞いておいて難だけれども、彼の口からそういう話を聞くと
ああ、やっぱりボーカロイドなんだよなあ、とか思うわけで。



「そっか、んじゃまあ良いんだけどさ」



多少複雑な気持ちになる事は、この際置いておく。



「よし、んじゃー出発しますか!」



「はい!」



とりあえずここは、楽しまないと損でしょう。


拳を握って、カイトと初めの一歩を踏み出した。





夏休みの醍醐味は









潮風が、そよりと吹いた


青い空、蒼い海


白い砂浜に輝く太陽



「おー、海だねえ」


強い日差しを手の平で影を作りながら避けて、
目の前に広がる海を仰ぐ。


キラキラ光る水面に、小さい子供が親子連れで遊んでいたり
若い子達が戯れていたり。


うん、青春だなあ、なんて思いながら。



「しっかし、また随分と控えめな水着にしたなあ、。」



遊ぶ気満々で屈伸運動なんかしてるが言って、
は自分の水着を見下ろした。


黒いビキニに、白のレースがあしらわれる、今年買ったばかりの水着。

同じデザインのショートパレオが付いたそれは、
の雰囲気を若干幼く見せる。

恐らく、上に羽織った白いパーカーのせいもあるのだろうけれど。


「っていうか、確か、水着持ってたよね?
 去年プール行った時のやつー。」

「あー、そう言えばあったあった、
 ちょっと大人っぽい感じのエスニックのでしょ」

「あー・・・本当はあれで来るつもりだったんだよ、今日だって。」


パラソルを立ててシートを敷きながら、
悠姫とヒロが言うのに、が遠い目をしながら答えて。


他3人が顔を見合わせるのに、がゲッソリと言った。


「だって、カイトがうるっさいんだもん・・・・」


彼女達の言う通り。

数年前に買って、まだ気に入って着ていた水着があった。


結局新しく購入する事になったこの水着は、準備段階で
カイトと散々揉めた挙句に譲歩した結果だった。


そんな露出の高い水着で、ナンパでもされたらどうするんですかマスター!!とか

散々言われたのだけれども・・・


いや、そもそも水着はどうしたって露出高くなるだろうって感じだったりして。


「うっわー、ナニソレうらっやまし!」

「ノロケですか!ノロケですね、さん!?」

「ちっがーう!!
 ノロケる以前に、そういう関係じゃありませんから!」

「えーっ!!でも絶対に今のはノロケだったよ!!」


3人から大ブーイングを喰らって、
クッ・・・何でカイトが絡むとこういう役どころなんだ自分。


って言うか・・・・


「その当の本人は今何処にいんのよ・・・・」


は、辺りを見回す。

確か、各自民宿で着替えを済ませてから、
分かりやすいようにと、海の家の前にシートで陣取って、
そこに集合だ、と言う話をしていたのだ。


各自とは言え、女の子グループの4人部屋と、
カイト用の1人部屋なので、必然的にカイトが1人で此処に来る、
と言う事になるのだが。


「道にでも迷ってんじゃないの?」


のいう言葉にも、ある意味説得力はある。


・・・けど、自分はもっと説得力のある仮定が出来る。


って言うか、ソレしかないと、自分では思ってる。


「は、ははは・・・・ちょっと、私その辺り見てくるわ。」

「んー、いってらー。
 が迷子にならないようにねー」

「気をつけるー」


軽く手を振って返しておいてから
はクルリと、浜の中でも道路沿いに位置する方へと身体を向けた。


向かう先は、ひとつ。


海の家、だ。







「やっぱりいた!」


言ったの声に、見慣れた青い髪は、ハっと身体を揺らして振り向いた。


「あ、ま、マスター?」


どうしたんです?とか聞く彼は、
先日自分の水着と一緒に買った、黒いトランクスタイプの水着を着ている。


足のラインの切り返しで、グレーの迷彩が入っているのが少し洒落ていて
今は、ブルーブラックのシャツを羽織っていた。


・・・・だから、やっぱり何を着ても似合う辺りが、ちょっとばかりムカツクわけだけれども。


「どうしたんです?じゃないっての。
 カイトがいつまでも来ないから迎えに着たんでしょうが。」


「あ、す、すみません・・・・」



腰に手を当てて言ってやれば、シュンとしてカイトは言う。


・・・・・カイト目立つから、この状況って傍から見れば
明らかに私が男を尻に敷いてる図になるんだろうなぁ・・・・とか


いや、それはそれで間違っちゃいないんだけどさ。


あ、何だろう、この切ない気持ち。



思わず溜め息をついて、それから、諦めたように言った。


「で?」

「へ?」

「どのアイスに惹かれて、こんな所にフラリと来たのよ。」

「あ、バレてました?」

「じゃなきゃ、カイト探しに海の家になんて来ないっての。」


言ってやれば、それもそうですね、とカイトは苦笑。


「あの、久しぶりにスイカバーが食べたいなーとか。」

「あ、海に来ると食べたくなるの、何となく分かるかも。」

「でしょ?」

「うん、ちっさい頃とか良く食べた。」


しょうがない、私の分も買うついでに買ってやるか、と
言えばカイトは相変わらず嬉しそうで。

アイスの事になると、本当に人格が変わるんだから・・・


「それにしても、マスター」

「ん?」

「確かにマスターが長袖以外を着てる所、
 見た事ないですけど・・・・」


幾らなんでも、海に着てまでそれは暑いんじゃ・・・と
自分の着ているパーカーを指差す。

は、買ったばかりのスイカバーをカイトに渡しながら
口を尖らせた。


「良いじゃない、別に。
 っていうかカイトだって着てるじゃん」

「俺のはTシャツです。」

「同じようなもんだって」

「大分違うと思いますけど・・・・」

「いーの、焼けるの嫌なんだってば。
 あーもー、ホラホラ、とにかく、たちが待ってるから!」


ホラ、さっさと行くよ!と

はカイトの手を引いて海の家を飛び出す。

すっかり話を打ち切られてしまって、カイトは慌ててに続き
海の家を飛び出す。


夏の日差しが痛いほどに肌に降り注ぎ、
思わず目を細めた。


その中では楽しそうに笑っていて。


まあ良いか、と、暑く焼けた砂に足を浸した。