罰ゲーム








「はあ・・・・それでわざわざ俺のところまで罰ゲーム聞きに・・・・」


人に見つかりそうになって、大慌てで叩いたカイトの部屋の扉に
彼は状況を察したようにすぐに部屋に入れてくれて。

今向かい合って話をしているわけだけれども――


「しかしまた・・・見事にその・・・・」


「あああぁぁ皆まで言ってくれるな、流石に凹むから・・・・」


頭を抱えてうああぁぁ・・・・とか唸るにカイトは苦笑して言葉を噤んだ。

心遣い有難いが、それはそれで切なかったりもする。


「でも、マスターに罰ゲームって、あんまり考え付かないんですけど・・・」

「えー、別に私に出来るなら何でも構わないけど。」


もうこうなったら何でも来いだチクショウ、とか言う心境もあったりなかったりで言ってみれば
カイトはうーん・・と、割と難しい顔をして唸る。

そんな難しい顔しなくても、と苦笑して見せるが、
そうは言われても・・・・とのお答えで。


「うー・・・・この罰ゲームって有効期間いつまでですか」


最終的にはそんな事言い出したカイトに
え、何コレ有効期限なんてあるのか、とか思ってしまうわけだけれども。


「えーっと、じゃあ私が覚えてるまで、」

「あ、アバウトですね・・・・」

「大体してお遊びの罰ゲームに有効期限ってのもねぇ」


まあ、何か思いつくものがあって、且つ私がまだ覚えてたら聞いてあげるよ、と
言ったに、それじゃあなるべく早めに決めますね、とカイトは笑った。


「さて、んじゃとりあえずこれで部屋戻って着替えられるかな。」

「あっマスター、記念に写メとか撮っておいて下さい」

「え"!?い、嫌だよンなの」

「・・・・じゃ、あとでさんから貰います。」

「ってちょっ!!なんでが写メ撮ってたの知ってるの!!」

「だってさんですもん。」


撮ってないワケがないかと思って、と、言ったカイトは確かに正解だ。

うぅクソウ好きにしやがれ、とか、半ば投げやりには言って、
さてそれじゃあ部屋に戻るぞー!と、ヤケクソ気味に立ち上がった。


「おやすみなさい、マスター」

「うん、おやすみ、カイト。また明日の朝にね、」

「はいっ」


部屋の玄関先まで見送ってもらってから、そんな言葉で手を振って、
カイトはニッコリと返して手を振り返して


ほんの少し開けた隙間から、廊下に誰もいないことを確認して、
それじゃあ、と最後に挨拶を交わして、その部屋を後にした。



――― まさかそれが、10分もしない内に


この部屋に舞い戻ってくることになるとは、流石に思いもしなかったけれども。










「カイトー、もう大丈夫だよ」

「は、はい・・・・」


自分から背中を向けるようにして、壁と仲良くしていたカイトが
耳まで真っ赤にして返事を返す。

は、何とも言えない顔をして、
今まで自分の着ていたメイド服を畳んだ。


自分が現在着ているのは、
カイトの借りている部屋に予備として備え付けられていた浴衣だ。

正直、この民宿が気遣いある宿で良かったと思う。

これで予備の服がなければ、
明日の朝までメイド服で過ごさなくてはならなくなる所だった。


「くっそー、明日絶対にみんな膝詰めで説教してやる。」


畳んだメイド服を適当に部屋の隅に置かせてもらって
は歯噛みしながら心に決めた。


時刻は夜の11時。


まだ午前様にもならない時刻。


だというのに、さてどうしたわけか
たちは見事に寝こけたらしい。


まあ、昼間あれだけ騒いでいたわけだし
疲れているのも無理はない、とは思う。が、


自分が部屋を出されたときに聞こえた、鍵を閉める音。



友達を締め出してまで睡眠に走るのは、どうかと思う。



「はぁ・・・ごめんカイト。
 なんかブラケットとかだけ貸してもらえれば、
 私雑魚寝するから・・・・」

「ってダメですよ!!
 マスターにそんな事させられるわけないじゃないですか!!」


雑魚寝は俺がするんで、マスターは布団使ってください!


カイトはそう言ってくれるけれども・・・いや、
カイトの為に借りた部屋なわけだし、
その人を追い出してまで布団を使うのは、流石にどうにも気が引ける。


「マスターは女性なんですよ?
 自分の体優先に考えてください!」


「えー・・・・」


「えー、じゃありません!」



風邪でも引いたらどうするんですか!とカイト。


ここは素直に折れた方が良さそうで、
旅先でまで押し問答の喧嘩をするのは、流石に自分でも遠慮したい。


仕方ない、大人しくお言葉に甘えることにした時の
カイトの満足そうな顔と言ったら・・・



「あれ、そう言えば外、雨止んだ?」

「あ、言われてみれば・・・・」



呆れのような、苦笑のような


そんな笑みで彼を見てから、フと気付いたように言う

いつの間にやら消えている外の雑音に
カイトも今気付いたようだ。


は、顎に手を当てる。


何ていうか、折角旅行に来たのに
このまま寝てしまうのも、味気ない。


っていうか、部屋を閉め出されているこの状況に
なんだか物凄く悔しい気分になる。


「あ、ねえカイト。」

「はい?」



思い出したように、言う。


見やった彼女の瞳が、あまりに輝いていたせいか
カイトが一瞬、驚いたような顔をした。


は気にした様子もなく、言う。


「花火、持ってきたって言ってなかったっけ?」

「え?あ、ああ・・・はい。」


言われて、思い出す。


夏の風物詩と言えば、やはり花火もそれだろうと
確かに出掛け際、バックの中に放り込んできた。

自分の方が、すっかり失念していたのだけれども・・・・


やりに行かない?と小首を傾げた
カイトは暫くの間の後に、微かな笑みで頷いた。