大学生の夏休みは、無駄に長い。


と言うのも、学生の中には長期休暇を利用して
海外に留学に行く者も少なくはないからで。



夏休みに入ってから一ヶ月が経とうとする頃。


まだまだ授業再開までは半分近く残っている。


そろそろ家に引き篭もるのにも飽きてきた頃だ。



「・・・・、冷静に、よーー・・・っく聞けよ?」


「な、何・・・・・?」


「親父達が、帰ってくるらしい。」



・・・・・・・・・・・・。



「んなーーーーーーーーーっ!!!?」



恐れていた出来事が、起きた。






突然の報せ











その電話が来たのは、数週間前。


が仕事を終えて帰宅しようという時で
この上手いタイミングで電話を掛けてこられるのは、
よほど自分と仲の良い人間か、家族かだ。


ディスプレイに表示される名前は後者を示していて
その珍しい相手に、は首を傾げた。



「もしもし、おふくろか?」

『ああ、?久しぶりねー、元気でやってる?』



電話の向こうの声は、既に28年間聞きなれた女性のもので

相変わらずな様子だったが、少しばかり
その口調に向こうの訛りが出てきた気がする。



「こっちは相変わらずでやってんよ。
 それよりどうかしたか?俺の方に電話なんて、珍しいな。」

『うん、それがねー』



この母親が電話をするのは、基本的にの方だ。

やはり息子よりも娘の方が心配になるらしい。


心配、と言う点においては
自分も結構シスコンの自覚があるので何とも言えないが。


ともかく、この人が鳴らすのは主に家の電話か
自分の妹の携帯の番号のどちらかであって

わざわざ自分の携帯を鳴らすという事はかなり珍しい事になる。


そしてその珍しい事が起こった理由といえば、
考えるにどうしても厄介な事を想像するわけで。



『カイト君の事がお父さんにバレちゃった★』



事態は、思ったよりも悪かった。






「で、親父の長期休暇を利用して帰省する事になったらしい。」


「えっ!?えっ!!!?」


兄から事情を聞いたは、大分パニック状態にあった。


元々と父親の間柄はあまり宜しくない。


それは一応、家族内でも承知された事実だ。



「ど、ど、どうしよう!!?カイト、隠した方が良い!!?
 なんだったら、その間だけでもの所に・・・」


「落ち着けって。親父はカイトの事知って帰ってくるんだから
 下手に隠したりしたって意味ねえだろ」


「あ、そ、そか。でも、どうしようーどうしたらいい?」



取り乱したが問う。


その様子に、カイトがおずおずとに尋ねた。



「あの、さん。お2人のご両親って・・・・」


「ん?ああ。別に普通の親だと思うぞ?
 おふくろは専業主婦。親父はリーマンの管理職。
 数年前に親父の昇任異動が決まってな。
 も俺も色々あった時期だったから、子供2人残って、
 夫婦だけで家を出たんだ。」



別に何かあって家出しちまったわけじゃないぞー。


言ったに、カイトは「はあ・・・・」と
分かったのやら分かってないのやら。



「まあなったもんはしょうがないだろ。
 腹括って親父達が帰ってくるの待つんだな。」


「え、えええぇぇぇっ!!?」


「面倒だがフォロー位はしてやるから。
 ドーンと構えて迎えてやれ。」


「ど、ドーンとって・・・・」




泥舟に乗った気分だよ・・・・と、
肩を落としたを、カイトが未だオロオロと見つめていた


彼女たちのこの反応が、何やら不安を煽る。


何たってこの2人、よほどの事が無ければ、
言われずともドーンと構えているのだから


という事は、何かよっぽどの理由があるのだろうか


そんなカイトの疑問は、翌日
自らの目で確かめることになった。