昔から、話の通じないくそ親父。 決め台詞は、「子供の癖に生意気を」とか 「誰が金を出したと思って」とか。 自分の力ではどうしようも出来なかった事。 それで利かなければ、次に手が出た。 力の加減は、わざとしない。 子供の頃には本当に、 いつかこの人に殺されるんじゃないかとも、思った。 どうせ今でも、厄介者だと思ってるんだろう、自分の事を。 『あの時』と、変わらないまま――― 親子関係 不貞寝で布団に潜り込んだまま、本当に眠ってしまったらしいと気付いたのは たまたま携帯に送られてきたメルマガに起こされたからで 見ればカイトも、ベッドの淵に頭を預けて眠っていた。 モゾモゾと動く自分に気付いたのだろう、 ぼんやりとした眼を、こちらに向けてくる。 きっと今自分、酷い顔をしてるだろうと思ったから あまり見られたくなかったけれども、カイトはニコリと笑って頭を撫でてくれた。 「大丈夫ですか、マスター?」 「う、ん・・・平気・・・・・」 ありがとう、とお礼を返す。 頭がハッキリしてきて、また悔しくなる。 一番悔しいのは、言い返せなかった事。 このカイトが、詐欺みたいな事をする為に此処にいるわけがないと あの父親に言い返すことが出来なかったことだ。 一つ深呼吸して、頭を冷やす。 今更イラついても、仕方ない。 見れば時計は、長針が一回りしたところ。 「・・・・・カイト、ちょっと手伝ってくれる?」 「はい?」 「夕飯、そろそろ作らないと。」 言うと、カイトはいつもの笑みで、頷いてくれた。 ―― ああホラ、自分はカイトが、こんなに優しいと知っているのに・・・ 何で言い返せなかったんだ、自分の馬鹿。 一時間前の自分に、悪態をついた。 リビングに入ると父親はおらず、母と兄がソファに座っていた。 大丈夫?と穏やかに尋ねてくる母に、は頷く。 「・・・・・・父さんは」 「散歩。頭冷やしてくるって。」 「あ、そ。母さん、疲れてるでしょ? 夕飯私が作るから、休んでていいよ。」 「あら本当?」 じゃ、任せちゃお。と母は笑う。 任されました、と笑って、 定位置に置いてるエプロンに手をかける。 その時にフと、ソファに腰掛けたまま 疲れたような顔をしている兄が目に入った。 「・・・・兄貴、頬赤くなってない?」 「ん?――ああ、気にすんな。」 ヒラヒラと手を振る。 ソファテーブルの上には、氷を入れた袋が置いてあって、 それで何となくは、事態がつかめる。 ―― 父親に殴られたか何かしたのだろう。 「親父ももう年だしな、俺まーだ若いし?然程痛くねえよ。 心配するなら、治りが良くなりそうな栄養のありそうなもん食わせてくれ。」 「・・・・ほっぺよーく動かす事になりそうな分厚い肉かな。」 「鬼かお前は・・・・・」 肩を落としたに、ようやくが声を上げて笑って。 それから、少し吹っ切れたらしい顔でカイトを振り返った。 「よしっ何作ろうか、カイト!」 「そうですね・・・・じゃあやっぱり、肉を焼いて・・・・」 「はーい、お母さん鶏のオーブン焼きが良いな」 「あ、それいいかも。」 「だーかーらーっ!」 何でそうなんだよ!!と。 イテテテテ・・・と腫れた頬を抑えたは 「あーあ、暫く女の子誘えないな」とか言っていて よし、じゃあ肉料理で決定、とは一致した他3人の意見になる。 けれども実際、鶏の賞味期限が迫っているから使わないとな訳で じゃあカイト、トマトとにんにく細かく切って、と指示を出して。 「そういえばこの間、海に行って来たんですって? カイト君、大丈夫だったの?」 「え?」 思いがけず母親から出てきた言葉に、 カイトが間の抜けた声を出す。 何で彼女が知っているんだろう、と言う具合な訳だが、 フと思い出すのは、彼女が毎月書いていた手紙の存在。 自分が初めて来た時から毎月ずっと出していて、 それの為に幾度も隠し撮りをされては、大慌てをしていた。 「あ、はい。防水加工もしてあるんで。」 「あら、そうなの。便利」 まあ、なんて頬に手を添えた彼女に、 横のがうんざり顔で、頭の後ろで手を組む。 「今回、その手紙が見つかって親父にバレたんだと。」 勘弁してもらいたいよなーとかぼやくに 「ほんと、お母さんもびっくりだったわー」なんて、 当の本人はのほほんとしている。 ああ、この母親だからこそ、 この家族はやってこれたんじゃないかな、なんて思ってしまったり。 その時、思いがけず、リビングのドアが開いた。 入ってきたのは、散歩に出てたと言う父親で、 キッチンに立つとカイトを見ると、微かに驚いたような顔をして。 「あら、おかえりなさい、あなた」 笑顔で迎えた母親に、「ああ」とも「うん」とも付かない返事をして 促されるように、その隣に腰掛ける。 は無言で彼の目の前に冷たい茶を置き、 は「風呂にでも入るわ」と、氷の入った袋を持ち立ち上がった。 「マスター、他に何作ります?」 「え?あー・・・そだな。 豆腐があったから、納豆乗っけて冷奴にでもしよっか」 「あ、良いですねー」 最近熱いですもんねーなんて言いながら 熱したオーブンに鶏肉の塊を乗せた鉄板を押し込む。 あとはサラダと、トマトとズッキーニ、ベーコンでも使ってスープを作ろうか。 笑顔でカイトと話すを、父親は始終目で追う。 「・・・・・、」 フと、呼ばれた名前に 当の本人は怪訝そうな顔で振り向いて 少し、落胆した表情を見せた。 「・・・いや、なんでもない。」 そんな父親の様子を、カイトが黙って見ていた。 |