小休止に戸惑う 学祭の準備は着々と進行し始め、 残り2週間前になると、本格的に忙しくなってきた。 授業は真面目に受けるものの何処か浮き足立ち、 放課後は、閉門ギリギリまで学校に残り、休日も同じように登校。 家で過ごす時間も少なくなり始め、 家に付く頃には、カイトの歌の練習を聞くまでも無く 眠りに落ちていることが殆どだった。 「大変そうですね、マスター・・・」 「うーん・・・リーダーとかになっちゃったからねー・・・」 どういう訳か。 自分はコース出店のリーダーに 任命をされてしまっていた。 で良いじゃん、どうして私、と不満は勿論垂れたのだが 「だって、仕切るのは下手じゃないけど すぐに脱線するんだから」 アブナイ。 ヒロのピシリとした一言に、納得してしまった自分が居た。 それにしても自分じゃなくても良いだろう、とは思うのだが 何だかんだで押し切られてしまい ああ、どうして自分、こんなに押しに弱いんだろう・・・。 「ああ、学祭当日は遊びにおいでね。」 「えっ良いんですか!!?」 「うん、とか悠姫も楽しみにしてるし・・・」 あっ、ちゃんと服装は普通の格好にしてきてね。 言うと、カイトは何度も頭を上下に振った。 ・・・・・そんなに嬉しいか。 「出来るだけ、マスターが暇になる時間に行きますね。」 「・・・・・うん、じゃあ2日目は一日ちょっと忙しいから。」 「・・・・なんか今、変な間が空きませんでした?」 「いや、気のせいじゃない?」 やっだなぁ、そんな訳ないじゃーん。 カラカラ笑って手を振る。 逆に怪しすぎると言うものだ。 ジト目で見ていると 「そう言えば、多分今度、が遊び来るからー」と、 素早く話題を転換されてしまった。 「さん?どうかしたんですか?」 「んー・・・学祭の衣装作るんで手伝ってくれって。 時間あればカイトにもちょっと歌わせたいとか言ってたけど。」 「本当ですか!!?」 楽しみにしてます!! 言ったカイトはウキウキとした様子で、 やれやれ、と苦笑しながらため息がこぼれる。 「あ、でもマスター?」 「ん?」 「お願いがあるんですけど・・・・」 「・・・・・お願い?」 また、そんなに改まってどうしたのだろう。 首を傾いでみせる。 カイトは何処か落ち着かない様子で 「えーっとですね・・・」とか呟きながら 「夏、海に行ったときの罰ゲーム。アレ、まだ有効ですか?」 「・・・・・・・あー、また随分懐かしく感じるなー・・・ うん、まあ覚えてたし、有効にしとくけど・・・」 何、今月のアイスがもう食べ終わっちゃったとか? 言うと、違いますよ!!と慌て顔だ。 何だ、違うのか。 てっきりそうだと思っていた。 「じゃあ、何?」 「えっと・・・・だから、お願い・・・何ですけど・・・・」 罰ゲームの話を持ち出しておいて、それでもまだ あくまでも『お願い』だと言う辺り、何かカイトらしいなぁ、とか思いながら そのカイトからの『お願い』は、予想していたどれとも違って 暫くキョトンっとしてしまった。 「んじゃ、とりあえず型紙はこんなもんで平気かなぁ・・・・」 「うん、多分大丈夫じゃない?」 「じゃあ、後は明日学校行って、みんなで布切ってっと・・・・」 学祭一週間前の土曜日。 先に言ってあった通り、が我が家を訪れていた。 に任せておいた喫茶店の制服は、 かなり大変な事になってるかと思っていたのだが、 割とシックな雰囲気で纏められていて 「私もやれば出来る子なんだ!」と踏ん反り返っていたのは とりあえずの所、放っておくにしても 特にその案には修正を入れず、 ああした方が体のラインが綺麗だ、スカートの丈はこの位の方が良い レースを付けるならこういう風にだあーだこーだ。 そんな事を言いながら、本日の半分を使って 型紙を起こしていた。 に至っては、被服は然程長けていないので 本当に少し口を出す程度だが、それでも 中々良い感じに仕上がるのではないか、と思っている。 ちなみに拘っているのは女子の制服のみで、 男子の制服は、ほぼ有り合わせの予定になっている。 学ランのズボンと白いワイシャツ、黒いベストは市販の物を使い 黒の蝶ネクタイとカフェエプロンは一応作るにしても、 極々一般的な喫茶店の制服だ。 曰く、 「馬鹿野郎!私がロマンを感じるのは女子の制服だ!ヤローはどーでもいい!!」だそうで。 自分にその世界は、よく分からない。 「んじゃ、明日よろしくね、。」 「おう、任されたー。」 出来上がった型紙は、が今日の内に大量にコピーし 出店の被服班で明日、制服の作成に取り掛かるはずだ。 昨日の内に女子全員のスリーサイズを計り合い、 女子特有のてんやわんやになっていた。 本来なら、明日は学祭前の最後の休日であるから、 色々と準備もある事だし、リーダーであるは 顔を出さなくてはいけないはずだった。 しかし・・・・・・ 「ま、明日リーダーはおデェトみたいだしぃ? しっかり代理を頼まれてあげますわよー」 オホホホホーと、口元を押さえニヤニヤ笑うに はグっと言葉を詰まらせた。 何だかものすごくムカつきながらも ようやく返せた言葉が「で、デートじゃない・・・っ」で 何かもう、それしか言う言葉が無い自分が切なすぎる。 聞いたは、えらく真面目くさった顔で 「男と女が学祭の準備放ってまで遊びに行くのに・・・デートじゃないって?」 「・・・・・・う、ウルサイ。」 別に、わざわざデートと言う事でも、ない。 今までにだって、二人で出かけたことは幾度とあった。 だから今回だって、違うんだ、うん。 例え、わざわざ学祭の準備をリーダーが放り投げ、 可愛ーくおねだりされた結果、向かう場所がフラワーパークとか言う 何かちょっといつもと違うような場所だったとしても。 ば、罰ゲームという名の、お出かけだ、ただの、うん。 そう、カイトからの罰ゲーム、だ。 ここ最近、休日も学祭のことばかりでカイトの事を放っておいた結果、 たまにはかまって下さい!との事で 一時間ほど車を走らせた先にあるフラワーパークの無料券を たまたまが仕事先で貰ってきたらしく、更にそれを譲ってもらったのだ、とカイト。 「たまには構って下さい、」と、膨れっ面で言われた後に 「今度の日曜日、行きましょ ![]() 何だか随分、作られたようなありがち展開だなぁ、と肩を落としつつ まあ折角無料券もあるというのだし、良いか、という事で、今回は にリーダーの代理を頼んだ次第だ。 微妙に人選ミスだった気もしなくも無いが・・・・ まあ、彼女は一応任せればやる女だ、大丈夫だろう。 その時、部屋をノックする音が響いて、 暫く、退室してもらっていたカイトがひょっこりと顔を覗かせる。 「マスター、珈琲淹れたんですけど、良いですか?」 「あっ、ありがとーカイト。」 ついでに、もう部屋は入っていいよーと 散らかっていた紙の類を片付けながらが言う。 嬉しそうに室内に入ってくるカイトに が「よしっ時間あるからカイト、ちょっと歌弄らせてー」とご機嫌で カイトは、開いたテーブルの上に 柔く湯気のたなびく珈琲と茶請けを置きながら「喜んで!」と微笑む。 は立ち上がり「ちょっとトイレー」と部屋を後にして 後に残されたとカイト。 がニヤリと笑って、カイトに近寄った。 「ねねね、カイトさ、聞いた?」 「はい?何をですか?」 「が、何やるか」 「喫茶店じゃないんですか?」 「聞いたの、それだけ?」 「?」 言う意味が分からない。 そんな顔をしたカイトに、は人の悪い笑みを浮かべる。 「カーイートっ♪良い事を教えてやろう。」 えらくニコニコした様子のに、若干引き気味になりながら に言われた言葉に、 カイトは更に疑問符を頭に浮かべた。 |