きらきらひかる、 学園祭一日目。 開演の放送を聴いてすぐは 喫茶店と言う名の休憩所である自分たちの出し物は 人の入りがあまり・・・というか、全く、なかったのだが やはりお昼が近くなり始めた頃から人が入り始め、 夕刻が近づけば、休憩目的で立ち寄る人が絶える事がなかった。 そんなこんなで一日目は後半右肩上がりになりながら終わりを迎え、 学祭二日目、つまり最終日。 「いらっしゃいませー。 本日のおすすめカモミールティーとチーズケーキのセットで〜す!」 出入り口の付近に立って、ダンボールで完全手作り感全開の看板を持ちながら 客の呼び込みに声を上げる。 お昼頃には満席に近かった客の入りも、ソレを過ぎれば一旦波は引く。 次に満席になるのは3時頃だろうか。 その頃には、は一度持ち場を離れる。 別件で一時間ほど駆り出される事になっているのだ。 それを考えれば憂鬱だが、その時間まではあと一時間程。 いっそ一思いに、と思わないでもないのだが、 時はあくまでも一定にしか進まない。 は死刑執行を待つ死刑囚のごとく、だ。 「あ、」 隣で呼び込みをしていた悠姫が、なにやらに気付いたように声を上げる。 ん?と小首を傾げてそちらを見れば、人ごみに紛れても目立つ、青い髪。 の姿を見ると、パっとした表情で、コチラに駆け寄ってきた。 「マスター!!」 「おーカイトー。迷わず来れた?」 「はいっ!!」 しっかりとお出かけ用の服を着込んだカイトは、 やっぱりそこらの男連中とは比べ物にならないくらいかっこいい訳で、 「え、何、彼氏とかいたの?」 同じく呼び込みをしていた男子が声を掛けてきて 「うんにゃ、居候」とか答えるのも、なんだかもう慣れてきたものだ。 「まあ折角来てくれたんだし、奢るよー。何がいい?」 「わっ本当ですか?えー・・・と、おすすめは?」 「んーとね、今日はカモミールティーとチーズケーキセット。 でも多分カイトはこっちのが良いと思うよ、ローズヒップティーとアイス3種盛り合わせ!」 「それで!!!」 カイトの即答に了解、と答えてから席を案内する。 はい、どうぞーと席を引いたところで、ガラっと教室の扉が盛大な音を立てて開かれた。 少数とはいえ来ていたお客さんが驚いたように振返って、店番をしていたメンバーが 「ちょっと静かに!!」とか言い合う中、ツカツカと足音高らかに近づいてきたのは、だった。 その形相がまた凄まじくて、なんとも気おされてしまう。 「!」 「は、はい?」 「イマイが逃げた!!」 「・・・・・・・・・・はい?」 なんですと? 首をコレでもかと捻る。 は両手をぶんぶん振って大分ご乱心だ。 「ったくアノヤローーーーーっ!!! このあたしの頼みごとをすっぽかすたぁいい度胸だ!!! 次会った時ぜってぇシメる!!!」 「あ、あのさん、とりあえず落ちつい――――・・・・・」 カイトが、大暴れするを諫めようとした、その時。 ガシィっと、音がしそうな勢いで、カイトの肩が掴まれた。 相手はもちろん、である。 の位置からは見えないが、カイトのかなり怯えまくった表情からして 恐らくすごい形相をしているのだろう。 「・・・・・・・・・・・・・た。」 「はい?」 「代役見っけたああぁぁひゃっほーぃっ!!!!」 カイトの両手を握って飛びはねる。 なんかもう訳が分からない。 とりあえず、の頭を思いっきり引っぱたいて、悶絶させてみた。 今日のステージを利用した最後のイベントは、被服サークルのファッションショーだった。 それに所属しているも勿論参加する予定なのだが、どうやら彼女は 自分で着るよりも他人に着せたかったらしい。 にモデルを頼みに頼んで、はと言えば勿論全力断ったのだが 「こないだのメイドさん写真、バラまくぞ ![]() とか言われては、断るに断れないところだ。 まさかあの時の写メをそんな風に使われるとは、思ってもいなかった。 そんな訳では、半強制的にモデルへと任命されたのだが、 今回のファッションショーで作るのは、どうやらパーティドレスらしい。 女性用だけでなく、今回は男性用も作りたいと言い出して、 のエスコート役に頼んだのが、同じコースでそこそこ顔の良い、今井と言う男だった。 が、どうやら今日の今日になってやっぱり面倒とか言って逃げ出したらしい。 確かにいい加減な性格のやつだが、ここまでか!と言うのお怒りだった。 で。 「俺がその・・・今井さん?の代役なんですか?」 「うん!体格も同じくらいだし、着れるっしょ。」 元々のモデルよりも顔の良い代役を見つけて、は一変してご機嫌だ。 当のカイトは、今、控え室に連れ込まれて、の手によって衣装を着込まされている。 「髪の毛ちょっといじくるねー。あとでちゃんと取れるようにはしてあるから。」 言いながら、カイトの髪の毛を持ち上げてコテを当てたり、ラメを付けられたり。 最初のうちは戸惑ってたカイトも、後半は最早されるがままになっていた。 一方はと言えば、同じくこの時間のシフトを外してもらった 悠姫の手によって、メイクとヘアアレンジを遊ばれていた。 普段はおっとりとしている彼女だが、結構至る所でちゃっかり女の子な彼女は 手先が大変器用という事も相俟って、中々こういう役所に向いている。 ピンクブラウンの髪の毛に、黒のエクステを編み込んでクルクルと巻き 空気を含ませるようにスプレーを掛けてから、舞台栄えするようにラメスプレーを吹き付ける。 メイクも舞台栄えするよう目元にポイントを置くように、 けれどもあくまでもナチュラルメイクを基本にして。 目元にもラメを乗せて、ほんの少しだけ華やかさを加えた。 「はい、出来たよー」 ポンっと肩を叩かれて、おーっと歓声を上げる。 普段メイクをしないわけではないけれど、 人にいじってもらう事は中々ないものだから新鮮だ。 やっぱり女の子だけあって、お洒落をするのは嫌いじゃない。 周りで準備をしていた、同じくショーに出る人たちが 髪型が気に入らない〜とか、その洋服可愛い、とか言葉を交し合う。 それはある意味では日常の中でも聞かれる言葉なのに 場所が変わるだけ、状況が変わるだけで、こんなにも肌に触れる空気が変わる。 中にいた先輩らしい人が 「ねェ!みんな準備終わったら集合写真撮ろ!!」と呼びかける。 彼女の友人らしい人はノリノリだし、 後輩達は少し気恥ずかしそうにしながらも、満更ではなさそうだ。 これから自分も舞台に登るわけで、心臓とか爆発しそうなのに どこか他人事のようにも思えてしまうけれど―― みんなの表情は、なんだかいつもよりもずっと綺麗に見えた。 それはメイクやヘアアレンジ、着ている洋服の影響ではなくて その人自身の表情がキラキラと輝いて見えて 「なんか・・・・・すごいね、」 「大丈夫、も十分キラキラしてるよ」 「ん?ラメ?」 「・・・・・あれ?そうゆう話だっけ?」 「えへ、冗談。」 だっていきなり言われれば、そりゃ照れる。 ちょっとはぐらかしたかっただけで、けれどもやっぱり嬉しかったから その後は素直に「ありがと、」とだけ返した。 そんな会話をしていたら、先の先輩が 「おーいそこの子達ー!写真入ってー!!」とデジカメ片手に声を掛けてきて 「はーい!」と明るい声で返事を返して立ち上がる。 首の後ろでフワリとゆれて見せたシフォンの柔らかいリボンに 何だか胸が高鳴った。 |