照れ隠しの耳打ち 舞台袖へ呼ばれ、廊下をみんなでゾロゾロと辿る途中、 同じくパーティドレスをショーの衣装として選んだらしい人の エスコート組の男子数人と合流して、それぞれのパートナーの元へと寄って行った。 例に倣って、カイトもの元へと歩み寄り、視線を上へ下へと動かすと おぉー・・・・と、間の抜けた歓声。 すぐ隣で合流したらしいペアの男性は、 「おー、綺麗になるもんだなー」とか、結構声を掛けているのだが カイトは何とも言葉に困ったように、口を開きかけたり、閉じたりを繰り返している。 けれどもそれは別に悪い意味と言うわけでもないようで、 表情や、少し赤くなったような頬とかを見れば、満更でもないようなのは見て取れる。 相変わらず、カイトの表情は分かりやすく出来ている。 とはいえ、合流してから全くの言葉を交わさないと言うのも何だか妙なもので 「ど?可愛くなった?」 クルンっと一回まわっておどけて見せれば、カイトはハっとしたように 首を幾度も上下へと振った。 「あ、あの・・・・・」 「ん?」 「え・・・・っと・・・・これ、髪の毛どうなってるんですか?」 言葉を探すようにして、けれども結局カイトの口から出てきたのはそんな言葉で は苦笑しながら「エクステだよ、」と答える。 「なんか、が急遽入れてくれって・・・・」 そこまで言うと、ひょぃっとカイトの後ろからが顔を覗かせてきた。 どうやらカイトの身長に、小さいは完全に隠れて見えていなかったようだ。 「だってさー、カイトの髪、それだけで映えるから。 作ってみたかったのは事実だけど、やっぱ主役は女の子の方だしー。 主役が霞んだら駄目っしょ、やっぱ。」 って事で、の方も派手にしてもらいましたー。 言って腰に手を当てるは、中々満足気だ。 自分でも、出来は上々、と言う事らしい。 って事だって、とカイトに振れば、はい、納得しました、だそうだ。 「で、どう?洋服の感想は?」 「うん、にしてはまともな出来で安心した。」 「実はそれ、舞台の中央まで行くとスルリと脱げる仕掛けが・・・・」 「帰る。」 「いや、冗談だって。」 何故そこで信じてしまうの。 言われたけれど、だって なら、なんか本当にやってしまいそうなのだから怖い。 「緊張はしてないかい?」 「んー、してないわけじゃないけど・・・・ ま、今回の主役はあくまでも洋服だしね」 転ばないようにだけ思ってればいいや。 そんな事を思ってる。 は「余裕だねェ〜」と笑っていて、はと言えば カイトの腕にスルリと手を回した。 「それに、素敵なエスコート役も出来た事だし、」 いうと、カイトは照れたようにパっと視線を逸らす。 は「はいはい、」と何処となく苦笑気味だった。 「ま、そんだけの余裕があるなら平気だな、 じゃー精々私の衣装を引き立ててきてちょうだいな。」 「はいはーい、」 軽く言われたから、あくまで軽く。 返して、に親指を掲げると、力強くお返しが返って来た。 「おーい、そろそろステージの方向かうよー」 足が止まってた一同に、いつの間にやらすっかり この中のリーダーの様になってしまった先輩が、声を掛ける。 再びはーい、と返事をして、一同の足は再びステージに向けてゾロゾロと歩き始めた。 シン・・・っと冷える舞台袖。 暗い足元に気を付けながら、歩みを進める。 「もう、マスターが隠してたの、コレですか?」 「だって、なんかガラじゃないじゃん、私がこういうのって」 「そうですか?」 「そうですよっと。」 ステージに声が漏れる事のない様にと、舞台袖では皆声量に気を使う。 コソコソと息を潜めたやり取りが交わされる中で、 とカイトは、そんな会話だ。 「あんなに必死になって隠すようなものでも・・・・」 「あるのっ!コスプレもどきみたいのは、夏休みのメイドさんで十分!」 それとこれとはまたジャンルが違う気がするんですが・・・・ 苦笑しながら言われて、膨れっ面の。 「被服サークルの方、準備お願いしま〜す」 そのタイミングで、ステージ担当らしい係りの子が声を掛ける。 瞬間そこは、再び緊張の張り詰めた、ピンっとした空気に変わる。 とカイトも例に倣って、だ。 『ただいまより、被服サークルによる、ファッションショーを行います。 ショーの最中は、携帯の電源をオフにするか――・・・・』 先ほどまでステージを利用していた団体がハケて、ステージの上が簡単に整備されると、 ホール全体にアナウンスが響き渡る。 ありきたりな諸注意をいくつか読み上げる声を、ショーに出る皆は、ただ静かに聴いていた。 そして、アナウンスが終わったと同時。 ドラムと低音ベースの利いた音楽が、比較的狭いホールに大音量で響き渡る。 「ぅゎっ」と小さい声が隣から上がり、思わず笑ってしまった。 とは言え大音量音楽は最初のインパクトだけなので、 そこから徐々に音量はフェードアウトして、適度な音量で一定する。 そうなればあとは、事前打ち合わせのリハーサル通りだ。 一番手の子がステージ上に足を踏み出すと、会場から歓声が上がり、 音楽と歓声とに掻き消されそうになりながら、アナウンスが入る。 一度ステージに出たら、戻っていくのは逆の裾だから、 先に出番を終えた子達に感想を聞いたりすることも出来ない。 逆の裾は歓声に沸いていそうだが、 まだ出番を控えているほうのこちら側は、緊張が張り詰めている。 そんな空気に流されそうになりながらいれば、 いつの間にか、とカイトの番を控えていた。 出番はショーの中頃、一番盛り上がる頃合だ。 自分の前の出番の子が、中央でクルリと回って 逆の袖へと戻り始める。 そろそろとが足を踏み出す頃だ。 「マスター、」 「ん?」 タイミングを図っていると、隣でカイトが 引き止めるかのように声を掛ける。 仰ぎ見ると、思いがけず顔が近くにあって、息を呑むうちに 耳元で、コソリと言われた。 「綺麗です、すごく。」 フイ打ちのようなソレに、反射の様に頬を熱が打った。 何か言い返そうにも言葉が出てこなくて、パクパクしていると、 カイトはニコリと笑んで、腕を差し出してきた。 「行きましょ、マスター。」 それでもやっぱり何か言いたくて、開いた口は けれどもやっぱり何も出てこなくて、諦めたように、その腕に手を絡ませた。 「エスコート、よろしくね、カイト」 言うと同時に、とカイトはステージに足を踏み出し 色とりどりの光が縦横無尽にホールを走り回り、 割れるような歓声に、高揚する気持ちになりながら とにかくその場を楽しむことに、専念した。 |