[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。













ぎゅっ。






「ん・・・・・流石に酔ったぁ・・・・・・」



フラリ、と揺れる足元に、大丈夫ですか?とカイトがたずねる。


ヒラリヒラリと、振られた手が帰ってくるが、
覚束ない足元からして、明らかに大丈夫そうではない。


「気持ち悪くなってません?」


「んー、そゆうのはないよ。なんかボーっとして眠いだけ。」


うん、それだけ、と既に呂律が回っていなくて、
どんな状態であるのかは、見るだけでも分かると言うものだ。


結局飲み会は夜中の11時過ぎまで続き、これから二次会に縺れ込み沿うというところだったが、
参加どうしよう・・・とかなり酔った様子の響羽が言うので、今日はもうやめておきましょう、と
カイトが諭しておいて


すると響羽は「うん、じゃあそうする」と素直に頷いた。



昼間の続きのように響羽の手を取りエスコートしながら

家の中は響希が気を利かせたのだろう玄関以外の明かりは
既に消されていて、部屋へと導くカイトの手に、響羽は素直に従っている。


部屋に着きベッドの上に座らせると、ん~・・・と目元を擦る。


「俺、水でも持ってきますね、」


そんな響羽の様子を見ながら言ったカイトに、うん、お願い、と響羽。


良いが回ってる時の呂律は、何処か甘くてドキリとする。


そんな思考が掠めてしまい、そそくさと部屋を出たカイトを
響羽は首を傾げて見送った。



―― 自分も酔い、実は回ってるのかな



そんな事を思いながら、パタパタを自らの顔を仰ぐ。



そして、無事水を汲み終えて
部屋に戻ってきた時には、響羽はパジャマに着替えていて、
簡易メイク落としシートで、メイクを落としている所だった。


流石に、今日はお風呂は止めておいた方が良い事は
理解出来ているらしい。

それが判断できる程度なら、まだ大丈夫だろう。



「はい、マスター。お水、飲めます?」


「あ、ありがとー」



言ってコップを受け取った響羽は、
一気に半分くらいまでを飲み干して、テーブルにそれを置くと、一息ついた。


「あー・・・疲れた。眠い。」


いつもよりも少し低い声で呟いた響羽に、笑いながら
「お疲れ様でした。」と返す。


コクリと頷きだけが帰ってきた。


水で少しは酔いも収まったのか、まだ多少ぼんやりはしているが、
先程よりも幾分かはハッキリとした会話が出来るようになってきた。


「今日はもう寝ますか?」

「んー・・・そだね。
 カイト、電気消して――・・・・あ、カイトは着替えないとか。」

「あ、良いですよ。俺、下で着替えてきますから。」

「・・・・・・・・ん、」


響羽の返事は肯定なのかはよく分からなかったが、
まあ良いか、とそのままパチリと電気を消して。


モゾモゾと、暗闇の中で衣擦れの音が響く。


「マスター、ちゃんと布団入りまし―――うわっ!!?」


暗くてよく見えない足元を確認しながら、
響羽に確認を取ろうとベッドに近づいたら、思いっきり腕を引かれて倒れこんだ。


多少痛かったが、モフリとした感触からして、ベッドの上だろう。


腕には、柔らかい暖かさがしがみ付いたままだ。


「っマスター!?」

「一緒寝ようー・・・・」

「さ、流石にそれはマズイですって・・・!!!」

「なんで?」

「っ俺、一応、男です・・・!!」

「うん、」

「うんって・・・・・」


ダメだ、やっぱりまだ完全に酔ってる、


「だって、なんか寂しいじゃん・・・・」

「・・・・マスターって、酔うとくっつき魔・・・・?」

「うん。」

「うわぁ。」


そりゃぁ確かに何というか・・・・


まだ彼女がお酒に強いから良いが、
中々簡単に酔い潰れる訳にはいかないわけだ。



「えへへ、カーイトー」



ギュっと腕に絡みつく温もり。


これは、なかなか離してくれなさそうだ。


―― ああ、そう言えば。

電子世界にいた時も、よく酒豪の姉が酔い潰れて、
こんな風になっていた気がする。

普段酒に強いくせに、安い酒だと悪酔いする厄介な体質な姉は
もっと乱暴だったし、怖くて、こんな風に甘えてくるような仕草ではなかったけれども。


なんか、やっぱり少し自分も酔いが回っているのだろうか


心地いい温もりに、瞼が重くなる。



フと、暗闇の中慣れてきた視界に、とろんとした笑みの彼女が
薄暗がりの中、思いのほか近くて、思わずバッと顔を背けた。


やばい、何を流されそうになっているのか、自分は。



―― だから、やっぱり、流石に、これは、マズイ。



「っマスター!!あのですね・・・・・・マスター!?
 ・・・ってあれ!!?マスター、おーいっ!!!」



隣からは、既に穏やかな寝息だ。



確かに眠いとは言ってたけれども、これは、流石に何というか――・・・・



「こ、これで明日の朝
 悲鳴で目が覚めるとか、止めてくださいね・・・・っ!?」


もう眠っている彼女には聞こえていないだろうが、カイトは言う。

ん・・・っという微かな寝言を、無理やり返事と受け取って、
カイトは再び、心地いい温もりと、重たくなる瞼に身を任せた。



これは、絶対、自分のせいじゃないのだ。――絶対に!!















朝、目が覚めると。


自分は心地良い温もりに包まれていて
いつの間にこうなったのやら、カイトに抱きしめられる形で眠っていた。



と、それを確認した時点で、完全に覚醒したが
辛うじて悲鳴を上げるような事態にはならなかった。


酔っての失態を忘れられる便利な体質なら良いのだが
生憎昨日の記憶は、ほぼ一から十まで揃っている。



昨日この状況にしたのは――自分だ。



なら、叫ぶほうがお門違いと言うもので、
グっと喉の奥に堪えた自分を結構褒めてやりたい。


カイトはまだグッスリと眠りの中だ。


いつもよりもずっと近い位置の顔を見上げれば、
長い睫が表情に影を落としている。


―― あ、睫も青かったんだ。


そんな発見をし、どうすると言うのだ、自分は。



フゥっと、そろそろと落ち着いてきた思考を停止させて
再びベッドに体の全体重を預ける。


流石に一昨日と昨日は疲れた。


体が重たい。


今日はまだ片づけが残っているが、
幸い午後からで、まだ時間はたっぷりとある。


カイトに起きる気配はないし、
仕方ない、ベッドの感触と、カイトの温もりを楽しみながら


再び重くなってきた瞼と思考に身を委ねる。


―― 次に目が覚めたのは、それから1時間とちょっと後。


カイトの叫び声によるもので、
その後は、響羽よりもカイトの方がずっと、動揺した様子だった。


「いやー、カイトが謝る事じゃないしさぁ・・・・」


「っでも・・・・!!」


「なんかやましい事されたなら別だけど・・・・」


「それは、してませんから・・・・っ!!!」



季節は流れ、流れて


準備が始まった頃には、まだほんのりと赤く染まり始めていただけだった木の葉も
もうすっかりと北風に曝されて、落ち葉へと変わっている。


カイトがただひたすらに謝り続ける中、窓の外。


空気の匂いは確実に、冬へと近づいていた。