ガヤガヤ、ガヤガヤ、 教室がざわめき立つ。 そりゃ確かに、お昼休みともなれば 何処のクラスもいつも大抵賑やかにはなる。 けれども今日と言えば話は別で、 時には廊下の辺りから黄色い悲鳴まで聞こえてきて。 今日は、乙女の日・バレンタインデー。 ・・・・皆、乙女してんなぁ。 「で?」 「あい?」 机を向かい合わせにくっつけて、目の前のの唐突な言葉に 口に含んだままの卵焼きを飲み下しながら、逆に聞き返す。 そんな何の脈絡も無く「で?」とか言われても、 コイツとの付き合いはまだ1年そこそこで、以心伝心とか無理言うな。 普段は別のクラスの友達も交えて屋上で食べるお昼も、今日ばっかりは例外で、 バレンタインデー、お昼休み、屋上と来れば、 そこらここらで春が訪れていたり、そうではなかったり。 とりあえず乙女な皆様が好みそうな場所になるので、 色めきたった空気を避けて、教室に退避。 それだって、青春光線の被害は免れていないのだから、 屋上になんて行ったら、大変な被害を被っていたんだろうな、とか。 「んで、その唐突なお言葉は何なのさ。」 「いやぁ、今日はバレンタインデーなワケだし、」 「はいはい。」 「アンタはバスケ部の誰狙いなのかなぁと。」 「なんでバスケ部限定なワケですか。」 酷くピンポイントな問い掛けに顔を顰めながら、 タコさんウィンナーを一口。 ・・・・今日のお弁当は、やけに女の子らしい仕様なのだが、 一体全体、何を期待したんだ、母よ。 目の前の友人は、そんな様子に気にした様子もなく 頬杖をついて、楽しそうだ。 「やっぱ一番人気は流川よね、ファンクラブあるくらいだし。 んで3年生組みは今年卒業って事で、 最後のチャンスに掛ける女子も中々多いんだわ。 それから、最近になって株を伸ばしてきてるのは桜木ね。 今日になって何人かからチョコ貰ってるのを目撃済み。」 「アンタのその情報は一体どっから仕入れてくんのかしらね・・・」 しっかりチェック済みなバスケ部情報に呆れ顔。 コイツのそういった情報は、本当に抜かりない。 顔が利くとは言え、大したもんだ。 「んで、アンタは一体、誰に一票投じてくるわけ?」 「んな選挙じゃないんだから・・・」 「大穴狙いで三井先輩とか?」 「相変わらず人の話聞かないヤツだなぁ・・・」 っていうかですね。 ちょっとイラつき気味に続く言葉。 「学校の男が皆バスケ部ってワケじゃあるまいし・・・」 「ふむふむ、ってー事は、バスケ部以外って事ね?」 コイツは・・・・ いい加減その勘ぐり口調に疲れてくる。 「別に私は誰にあげるつもりもありませんからっ」 「と、言いつつも。友チョコと称した手作りチョコがしっかり1つ、 余分に用意されてんじゃないの。」 「ぐっ・・・」 流石にそこには言葉が・・と言うか、 少し投げやりに口に放り込んだほうれん草のおひたしが詰まる。 ・・・おひたしは普通、喉に詰まるようなシロモノじゃない。 思いっきり咳き込んだ自分に、ニヤニヤ顔の友人。 こんの目聡いヤツめ・・・ 「手作りチョコは毎年恒例! もしもの為に余分を用意するのも恒例ですっ!」 「って言い訳で中学時代は告白チャンスを逃してきたわけね。」 「・・・・・うるさい。」 図星を指されて、流石に苦し紛れな声になったに は、食べ終えたお弁当を包み直しながらカラカラ笑った。 ・・・悪いヤツではない。が、疲れるったらない。 と、その時、午後の授業の予鈴がなって、「あ、ヤベっ」と小さく呟く。 慌ててクラスに駆け込んでくるクラスメートはニヤニヤ顔だったり 赤くなっていたり肩を落としていたり。 たまに、手に幾つかの包みを抱えるヤツもチラホラと。 うんうん、青春だ。 「しっかし洋平も災難だったなぁ、まさか弁当を忘れてくるとは!」 「しかもそういう時に限って購買が休みと来た!」 「そう言うのは桜木の役所だぜー洋平!」 「ぬっ!?それはどういう意味だ高宮!」 「それはそのままそーいう意味だ!!」 「まあ、午後は何とか、寝過ごして誤魔化すっきゃないな。」 教室の扉がうるさく開いて、一際賑やかな集団が入ってくる。 クラス内ではガラの悪い感じな不良集団で通っている、通称・桜木軍団。 けれども演劇部の都合上、時たまステージを使ったりもする自分は それなりに言葉を交わす位には関係があった。 高宮達は其々のクラスに戻っていき、桜木は自分の席に座って 早速お昼寝モードに突入。 コラコラ、アンタはお昼ちゃんと食べたんでしょうに。 「何、水戸ってばお弁当忘れてきたの?」 友達の友達という事でか、同じく多少の関係があるは、 机を元の位置に直しながら、隣を通りかかった水戸に声を掛ける。 当の本人は、その短い眉を少し下げながら「まあな、」とのお答え。 彼は夜の遅い時間までバイトをしていると言うし、 寝過ごしたか何かして、そのまま忘れてきたんだろう。 今日は校舎点検の都合で購買は休みだといっていたし・・・ 確かに、そりゃ災難だった。 「水戸だったら、チョコとかでお昼賄えたんじゃないの?」 が冗談めかして言う。 それを聞くは、謀らずとも水戸の表情を窺うようにじっと見ていた。 瞬間に自分の体を緊張が支配したのは、流石に自分でも感じていた。 水戸は、笑う。 「そりゃないない。 生まれてこの方、バレンタインにチョコ貰った経験なんてないって。」 「そりゃまー、色のないこって。」 笑う。 自然肩の力が抜ける自分。 やれやれ、だ。 フと、そんな友人と目が合って。 何か、促されている気がして、慌てた。 以心伝心、出来る仲になってきたかもしれない。 「あ、えーっと。だったらさ、水戸。」 何と切り出したものか。 出てきた言葉は、それなりに無難な切り出しで、 そこまで不自然でもなかった――と、思う。 「チョコ、あるからあげようか?」 「ん?」 「えーっと・・・コレ、ナンデスガ・・・」 微妙に緊張しつつも、鞄から取り出した、チャンスがあるのだったら 『友達・水戸洋平』の元へ旅立ってくれたらと ヘタレた思いを込めて作った――通称・友チョコの余り物。 水戸は微妙に目を見開く。 「って、それ手作りだろ? そりゃ駄目でしょちゃん、ちゃんと本命の人の渡さないと。」 「あっ、ち、違う違う。これ、友チョコの余りで。 私、毎年チョコ手作りしてるから・・・別にそう言った意味合いは込めてないので。」 先程にしたのと同じ言い訳。 今更だけれど、これってもんのすごーく苦しい言い逃れなんだろうか・・・ それでも、毎年友チョコを手作りしてるのは本当だし、 他の友達に配った物と中身に相違は全くない。 ――あるとすれば、真心の込め方位ってなもんで・・・・。 そして、水戸も水戸で「へぇ、ずいぶん几帳面なんだな、」と気にした風もないから、 とりあえずの所は結果オーライで。 「そんじゃ、貰っちゃっていーの?」 「あはは、良い良い全然。 だから、ちゃんと午後の授業は受けようね?」 手作りチョコがきちんと彼の手に収まるのを見たら ようやく本調子が出てきて、冗談めかして言ってやる。 水戸は、『不良』なんて言葉はすっかり似合わない優しそうな顔で笑い返した。 「いや、午後はやっぱり寝るつもり。」 「こらー、本鈴までの間にさっさとそのチョコ食べて授業受けんしゃい。」 「だって、勿体無いだろ? 折角生まれて初めてのバレンタインの手作りチョコ、 何の気なしに食っちまうのも、さ。」 「は・・・・」 その言い回し。 狙ったんだか何だか、知らないけれども。 改めて確認させられたようなその言い方に、一瞬思考回路がショートした。 寸前とかじゃない、思い切り火花散らしたって。 「それじゃ、コレどーも、ちゃん。 ホワイトデーは、少し期待しててくれて良いよ。」 「あ、うん・・・」 ing系でショート中な頭は、 何とも気のない返事で遠ざかる水戸の背中を送り出した。 席に着いた水戸は桜木に何か言われて、笑いながら何か話している。 潰した鞄に、 しっかりと自分の渡したチョコを仕舞い込んで。 「どうしよう・・・」 「んー?」 「ホワイトデー・・・ちょー楽しみ。」 「はいはい、そりゃ宜しかったこって。」 やれやれ青春ねー。 さっきまで自分がクラスメートに思っていた感想が、 次の授業の準備を進める友人の口から、自分の元に返って来た。 「おおっ遂に洋平にも春が来たか!?」「まあ、あんな顔して渡されたら、幾らなんでも気付くしなぁ」 「でも良いのかな、一応友チョコなんだけど・・」「言ってなさい、クラス1の乙女め。」 |
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