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それは秋の、良く晴れたある日に


自分とモーゼスが買出し係になったのは、
毎回恒例のじゃんけんにこの2人が負けたからであって、
別に特別他意はない。多分。


だから、唐突とは言えこの会話になったことも、
それと同じで特別な意味は無いのだ、きっと。


「のう、華楠嬢」

「んー?」


両手に買い物袋を持って、モーゼス。

華楠の両手はがら空きで、彼が荷物持ちを
進んで買って出た辺り、多少の驚きを感じないでもなかった。


「ワレ、好きなヤツとかおらんのか」


派手に、前につんのめった。


荷物を持っていなくて良かったと、心底思う。

この男、唐突に何を言い出すのか


睨みを利かせれば、モーゼスは寧ろ楽しそうに笑い返す。

肯定と受け取った、と言う意味だろう。

墓穴を掘った気分だった。


「セの字とかか?
 どういうわけか、セの字のヤツはモテるからの」

「ざーんねん。
 競争率高い人に興味はなし。」

「ほんじゃ、ジェー坊かの」

「ジェイは可愛いとは思うけどねー。
 好きとはちょっと違うかなぁ」

「・・・・まさか、ウィの字じゃ・・・・」

「ちょっと!!
 流石に一子持ちの既婚者好きになる程無謀じゃないわよ!!」


まさかの勘繰りに慌てて華楠は否定する。

流石に、それはない。

ウィルは確かに頼りにはなるし良いヤツだけれども
その存在は何処までも『お父さん』であって、
そういった感情と交わる事は、今後一切といって良いほどない。


モーゼスは、「何じゃつまらんの」と下唇を突き出す。


何を期待したのか、本気で問いただしたい気分だった。



「それじゃあ・・・・・」



モーゼスが再び問いを再開させたが、
フと、言葉に詰った様な仕草を見せる。


何とも言い難そうなその表情の意味を咄嗟に読み取って
即時否定したのは、華楠だ。


「ち、違う!」

「・・・・・・・。」

「誰がそんな馬鹿山賊の事・・・・っ
 っていうか、何であんた等4人しか視野に入ってないのよ!
 あんた等以外にだって、イイ男なんか山程いるっての!!」


だから、絶対に、違うのだ。


そう締めくくった華楠に、
モーゼスはしばし何事か考えるような仕草をする。


そして、ニっといつもの笑みを浮かべて、言うのだ。



「それもそうじゃの」

「そうそう。」

「じゃからこれは、ワイの単なる片思いじゃ」

「そうそ―――・・・・・は?」



思い掛けない言葉が続いていて、
咄嗟に頷きかけた反応を、思わず飲み込んだ。


けれども彼は、手にした荷物を持ち直しただけで
やはりいつも通りに笑っていた。



「さて、少し急ぐとしようかの、華楠嬢」

「あ、ちょ、ちょっと・・・・・」

「ウィの字の家まで競争じゃ!!」

「ってコラーーーー!!?」



話も聞かずにヤツは走り出し、
置いて行かれるのが嫌な自分は、咄嗟にその後を追いかける。


少しばかり開いていたスタートダッシュの差が、あっという間に縮まって
割と必死に逃げていたその背中に、叫んでやった。



「答えくらい聞けよ、卑怯者!!!」



秋の日差しに照らされた背中が、驚いたように振り向いた。



それは、秋のある晴れた日に。



2人が買出し係になった事も、こんな会話になった事も
特別な意味があるわけではなくて


だからきっと、それに対する答えにも


他意はないはずなのだ。きっと。



それはのあるれた日に
 「私も好きだバカヤロー」












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