今日も遺跡船は、気侭に世界を巡っていた。

何処に行くでもなく何処へ辿り着くでもなく。

何が目的でも、何を求めるでもない。

誰にもその規則性が見えないこの船からは、
今日は本当の大地が見えていた。


大陸を平行走行する船は、際どい割には寸分のブレもなく、
あくまでも快適に進んでいる。


風は、もう夏も通り越してしまって秋の匂い。

枯れ草の匂いを僅かに含んだ甘い風だ。

木々に茂る葉は既にくすんだ色をしていて、
時折風にそよと吹かれると、赤や黄色に変わった部分を覗かせる。


全てが終わってから、時は巡ったのだ。


「ねえワルター。
 今ね、めっちゃ平和だよ。」


人間に怯える毎日は、暗鬱だった。


空はきっと変わらず青くて、花だって、きっと変わらずに咲いていた。

けれども其れに気付く事すらなく、世界はただ恐ろしかった。

明日の命を思いながら、今消えて行こうとする命を思いながら、
憎しみに体を委ねて、ただ時ばかりが過ぎる日々―・・・


だから今、こうして戦死した彼の墓の前に立って
こうして穏やかな気持ちで風に吹かれている事が、不思議でならなかった。



「・・・本当に、平和・・・・」



そうとしか言えない世界は、逆に言えばそれだけでしかなくて、
少し退屈な気持ちがあるなんて、とても言う事なんて出来ない。


だから、もし知っているのだとすれば、
すっかり愚痴を吐きに来る場となってしまった、
この土の下に居るであろう彼ぐらいだろう。


「ねえワルター、アンタは馬鹿ね」


心だけでも、充分過ぎる程に捧げていたのに。

命までも、メルネス様に捧げる必要なんて、なかったのに。


必死な人で、それしか頭になくて・・・


言えば不器用だったけれども、不器用すぎて、いっそ馬鹿だった。


「ねえワルター、知ってた?
 世界って、こんなに綺麗だったんだよ。」


春に揺れる白い花の事。

夏に光る、宝石の様な水面の事。

秋に水に映る、紅い葉の事。

冬の澄んだ星空の事。


こんなに綺麗な世界を、貴方は知ってたのかしら・・・?


知らずに死んでいったのなら、勿体無い。

やはり、そうしたら彼は馬鹿だ。


「勿体無いから、毎日来て話してあげようか。」


知らないなんて、勿体無さ過ぎるから

教えてあげようか。


どんなに時が巡っても、もうこの世界は平和なのだと。

どんなに時が巡っても、もう憎しみだけが体を侵す事は無いのだと。


教えてあげようか。


どんなに時が巡っても、変える事の出来なかった、自分の事。



「ねえ、ワルター・・・」



貴方は、知っていたのかしら?


こんなにも、こんなにも


貴方に焦がれていた人間が居た事を・・・・



「好きよ。大好き。」




あの、此処に居た
きっと私の気持ちも知らずに死んでいった、大馬鹿者でしょうね






- CLOSE -