長い草道をひたすらに歩む。

先を伸びる土の道は、それでも時に獣道と紛れる。

葦の長い草が、雲を流す風に気持ち良さそうに揺れていた。

季節を示す秋茜は2匹3匹とじゃれる様に飛立っては
その薄く透ける羽を懸命に上下に動かして
ふと、近づいてくる人の気配を感じて、秋空へと高く舞い上がった。


足音は、2つ。


大きな音は立たないが、乾いた空気に良く響く。

会話はまったくと言って良い程に無い。

占めるのは沈黙と、静かな足音と、どこかで獣の鳴く声。
そして、ぎこちなく動くその視線だ。

冷たい風はどこか鋭く頬を撫でる。
隣を歩くその人の白い肌は、更に白いように見えて寒そうだ。



「ジェイ・・・寒くない?」



白い雪の様な肌があまりにも寒そうで、
思わず沈黙を破って問う。

長かった沈黙を破ったその声に、ジェイは
その黒髪を揺らして、こちらを見た。


「ぼくは大丈夫です。
 さんの方が、寒いんじゃないですか?」


確かに、彼の格好と言えばどちらかと言えば冬に強そうな格好だ。

比べてこちらはと言えば、どちらかと言えば夏に強そうな格好。



衣替えの季節も、当に過ぎていることには知っているのだが・・・



「・・・そろそろと冬仕様にするか・・・」



タイミングを逃してそのままだったのだが、
流石に寒いのだと、今更に気付く自分はどこまで鈍感なのだろう



「そうですよ。
 あんまり季節外れな格好してると、
 モーゼスさんみたいになっちゃいますよ」


「それ、本人に言ってやろーっと」


「・・・別に、言っても構いませんけどね。」


「また喧嘩になったらウィルに止められるんだろうねー。
 ガスンッって」



クスクスと笑って言う。

ジェイは、ウィルの鉄拳の痛みでも思い出したのだろうか。
すこし顔をゆがめた。



「・・・どうしてぼくまで怒られるんだろう・・・」


「まぁ、減らず口のせいでしょう」


「挑発に乗ってくるから悪いんですよ」


「挑発するから悪いんですよー、だ」



お互い、視線の向きは明後日の方向だ。

どちらの物も、相手とは交わらない。



「・・・あくまでモーゼスさんの味方ですか」


「・・・あくまで自分は悪くないと主張しますか」



視線処か意見すら交わらない。

お互い同時に溜息をついた。



「カーワイくないのー。」


「お互い様でしょう」



それもそうなのだけど・・・

会話は、其処で途切れた。

また、沈黙。


今度は、いつまで続く沈黙だろう・・・?


景色が光り輝く


世界は鮮やかなオレンジだ


沈む夕日が目に痛い


穏やか過ぎる海の音が、どこか遠くで聞こえた。



強い風が一陣舞う

北から吹くものに変わったそれは、流石に肌に痛かった。



「寒い・・・ね」

「そんな格好してるからですよ」

「次からはちゃんとした格好して来ますー」



次があるならだけどね、と笑って。

散歩くらい、いつでも来れるでしょう、とはジェイ。



「・・・こんな平和な時間が、永遠に続けば良いのにね。」


「そうですか?」


「そうでもない?」


「こんなのがずっと続いたら、興醒めですよ。」



怪訝そうな顔で返された事に首を傾ければ、ジェイは言う。

そうなのかなぁ・・と考え込むようなの仕草に、呆れたような顔になった。



「時折こういう時間があるから、楽しく感じるんでしょう。」


「楽しく感じてるの?」


「・・・それは置いておくとしても」


「置いといちゃうんだ。」


困ったように笑う。

夕日に照らされる黄金色した長い下草が揺れて、
秋茜が二人の間を飛んで行った。


「例えば、ぼくがこれからずっとさんに優しく接して
 もう喧嘩も二度としません、皮肉も止めましょうとした場合・・・
 どうします?」


「・・・ごめん、そこで自分を例えに出す自虐的なジェイもどうかと思うけど
 なんか色々と怖いデス・・・」



そんなジェイ想像もできないし、そんなのジェイじゃない。

答えたら、まあ軽く不機嫌ではあったけれども
「まあ意味合いとしてはそんな感じの事ですよ」とジェイは答えて。


・・というより、ジェイが自分で自分を引き合いに出したくせに
どうして彼が不機嫌にならなくちゃならないんだろう・・・



「では、さんが理解もした処で、そろそろと街に戻りますか?」


「へ?」


「いい加減戻らないと、街の入り口が閉まっちゃいますよ。」


「・・・・アレ、もうそんな時間だっけ?」



あらー、と頭を掻けば「本当に頭が悪いですね」と言われて、
いやこれは頭が悪いとかそういう話ではないと思うけれども。


スイッと、ジェイが元来た道を戻る為に<の横を通り過ぎて、
同時に、金飾りがチリンと鳴って、秋の夕焼けに寂寥を注す。


追いかけようともしないで、その場に突っ立って見送るだけだから
ジェイの背中はどんどん遠ざかる。


秋茜の通り道が、2人の間に広がっていく。


風が、そよと吹いた。


甘い金木犀の薫りを孕んで。



「ねー、ジェイー」



呼びかければ、足を止めて振り返る。

少し離れた距離に、少し声を張ってやれば、
冷えた空気を震わせるように、リンと響いた。



「ずーっとじゃなくても良いからさ、
 こういう時くらい、優しくてもいいんじゃない?」



ほんの少しだけ、怪訝そうな顔でジェイ。

けれどもすぐに、溜め息をついて此方に歩み寄った。

カサリと乾いた音を立てて揺れる下草を踏みつけて


「こういう時だけ、ですからね」


「たまには、ね。」


言って合わせた苦笑顔に、2人おもむろに手を繋いだ。

冷えた手に、ジェイの体温がヤケに熱く感じる。


「本当に、冷たいですね。」


「冬も近いもんねえ。」


「それでそんな格好なんですから、
 貴女もいい加減馬鹿ですよ。」


「・・・知ってるけども言われると傷付くな。」


もうちょっと言い方って物がないの?


言っては見るけれども、結局はこれがジェイなんだから、どうしようもない。


むしろ、さっき彼自身が仮定した『ずーっと優しいジェイ』なんてもの
ちょっと見てみたいって言うか、軽く見習って欲しいかもしれない。


恨みがましそうな目で見てやったら、ジェイが困ったように笑って見せた。


「・・・こう言うのは、あんまり得意じゃないんですよ。」


それから、ゆっくりと冷えた身体を抱きしめてくれて。


「・・・知ってるよ、苦手なのなんか。」


だから普段は、こんな関係にはならないし、なれないけれども。


ジッと、その深い紫暗の瞳を見つめた。


少し困った顔をして、
ジェイがそっと、片手で目元を覆い隠して。


促されるように閉じた瞳は、最期に朱く映えた景色を捉えた。



夕日が山間に消えていく、ほんの一瞬の輝き


そよそよと北風が下草を鳴らして、秋茜と戯れて


そんな一瞬だけの世界の中で


2人の影が少しだけ、重なった。





消えない永遠など寓話でしかない
それでもたまにはこんな一瞬があったって、罰は当たらないだろう。








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