ふわり、ふわり、揺れる恋心


彼にそんな、感情を抱くようになったのは
一体いつからだっただろう。


きっと始まりなんて、もの凄く単純であったように思う。


彼のフと見た横顔が、すごく綺麗で


属に言う幼馴染と言う分類で、彼を意識した事なんて無かった自分が、
初めて彼を『彼』だと認識したその瞬間


あまりに単純で笑えてくるけれど


多分恋に落ちるには、充分な理由だったんだろう




「ワルター!」




名前を呼べば振り返る彼。

金の髪が光を弾いてさらりと揺れる。


そんな行動一つにときめく自分は、まるで馬鹿みたいだけれども
好きになるってそういう事で、


彼のそんな姿を見るだけで、嬉しくなったり切なくなったり。


オトメゴコロってよく分からない


嬉しいなら嬉しいで一つになれば良いと思う。


自分は、そんなに幾つもの感情を感じられるほど
出来の良い頭はしていないんだから


「・・・・何の用だ、

「ありゃ、また不機嫌さんだねーワルター」


何かあった?と問い掛けては見るけれど、
ワルターは、フイっと顔を背けてしまった。


大方メルネス関係か何かだろう。


いつも不機嫌ではあるけれど、此処まで彼が不機嫌になる要素なんて
彼女以外には中々考えられたものじゃない。


あ、やばい、ちょっと嫉妬心。


「・・・・お前まで、あいつ等の事を思い出させてくれるな・・・・」

「・・・・・・・お。」


苦々しげに呟かれたその言葉を、
どう受取るべきか判断し損ねて、何とも間の抜けた返答。

ワルターは怪訝そうに自分を見やって、
「ああ、いや、うん、ごめん」と、慌てて回答を改める。


お前までって・・・


何だ何だ、これは少し、喜んでも良い場面なのか?


どうにも、判断がつかない。


今まで気付かなかったけれど、ワルターって結構難しい。


「・・・・それで、何の用だ?」

「うーん、用事って程の用事でもないんだけどね、」


用事が無いと話し掛けちゃ駄目だった?


首を傾げて問いかければ、ワルターは逡巡した後に
「・・・・構わん」と、短いお答えを下さった。


良かった、と笑みを向ければ、ワルターはそっと視線を逸らす。


ついでに、溜め息まで吐いてくださった。



「なーにさ、その溜め息。」

「・・・・・相変わらず、お前はよく分からん」

「よくわから・・・って、もう何年の付き合いよ、ワルター」



とりあえず、産まれて尻ペタ青い時からずーっと一緒よ?と

言えばワルターは頭が痛いと言うように、こめかみを押さえる。


「それなら、昔からお前はよく分からん奴だ」

「おおっと、そう来たか」


傷付くわー、言って笑う。


軽く言ってはみたけれども、正直、衝撃大きい。


ワルターの中ではそんな見解か、寂しいなぁ・・・


大体よく分からん奴って何さ

単純とはよく言われるけれど、分からないなんて初めて言われぞ

それがまさか、片思いしてる幼馴染に言われるなんて


ああもう、これは泣いても良い所ですか



「・・・昔から、お前と話をしていると毒気を抜かれる・・・」


「へ・・・・?」


「長い付き合いになれば、そんな事もなくなるかと思っていたがな」


それでもまだ、お前を見てると毒気を抜かれる・・・・と

呟くように言ったワルターに


え、何、それってあの

私を見てると落ち着くとか、そんな感じの見解で宜しいでしょうか・・・?


「そのとぼけた顔のせいか・・・・」

「ちょっ、誰がとぼけてるって!?」


これでも女の子なのに、ワルターってば失礼!と
じゃれる様に掴みかかろうとすれば、あっさりかわされて。


ああくそう、ちょっと本気で一発入れておけば良かったかな・・・


思ってムスっと彼を見たら、
一瞬だけ、思いがけずに、彼は柔らかく笑んでいて


本当に、ほんの一瞬だけ


でも自分は、その瞬間を確かに見てしまった


ああ、今の表情


額縁にでも飾って、独り占めにしてやりたい。


って、今この状況でも、ある意味独り占めなのか。


・・・・・・少しくらい、嬉しくなっても、良いよね?


ほら見なさい、私なんて、こんなに単純じゃないか。



「・・・・・そろそろ戻るぞ、

「え、戻るって里に?」

「それ以外に何処がある。」

「いや、無いけどさ」



なにか用事あるの?と尋ねた
特に無いがお前に何時までも付き合う暇も無い、だそうで


持ち上げるか、突き落とすか、どちらかにしてくれ。



クルリ、踵を返したワルターの背中を、見つめる。


風がサラリと、ワルターの髪を揺らす


ふわり、ふわり、恋心を揺らす


ああ、ねえ


この風に乗って、この思いが届けばいいのに



―― 好き、好き、好き・・・・・



何度でも、心の中で呟いてみる


風は、ワルターのマントをふわり、揺らして



「――――――っ!」



唐突に、驚いたように振り返ったワルターに


驚いたのは、むしろ、こっちだ


恋心が、ふわり、ゆらり、乱される


振り返ったワルターの


フと見た頬が、僅かに赤くなっていた、なんて


きっと、見間違いだ。





運命 よりも偶然に、運命をじた
ねえ神様、今のは偶然?それとも――・・・・

- CLOSE -