落ちてきそうな夜空を見上げる。 薄い闇のヴェールに縫い付けた、 幾つもの豪勢なガラス玉が、煌びやかに瞬く。 今日は、月も出ていない。 街の明かりが消える深夜には、星はいつもよりもよく見えた。 別に何か用事があって、というよりは、単にいつものメンバーで集まっていたら 気付いた時には橋が上がってしまっていて 帰ろうと思えば帰れないことも無いけれど ノーマの提案で、ウィルの家に皆で泊り込みをしようと言う事になった。 また突拍子も無い提案だったけれども、 思えば、こんな風に全員が揃ったのは数ヶ月ぶりくらいの事で、 たまにはこんなのも良いか、と、結局皆が了承した。 今は、皆家のリビングで川の字で寝ているだろう。 自分だけ、眠れずにこうして、夜の星を眺めていた。 夜は更けたが、まだ長い。 背後で一つ足音がして、振り返る。 見慣れた赤毛が、いつもの様に上半身を風に曝して、立っていた。 「おう嬢。こがあな場所におったんか。」 「あっちゃー、うるさい人に見つかっちゃったなぁ・・・・」 開口一番、嫌味の一つでも言って目の前の男を見やるが、 本人は気にした様子も無い。 いつもの独特な笑い方で、近づいてくる。 「トイレにしちゃあ長すぎじゃぞ、嬢」 「夢遊病にしては出歩き過ぎじゃないの、モーゼス」 寝るなら布団で静かに寝てよね、と。 モーゼスが呆れた様に「可愛げのない奴じゃの」と呟くが は聞こえないふりをした。 いつもなら嫌味の一つでも返ってきそうな所だが、 珍しくそれがなくてモーゼスは少し乱暴に、頭を掻く。 それから、困ったように「あー・・」と間抜けな声を出すので、 が怪訝そうに眉を顰めた。 「どうかした?変な声出して。」 「――何じゃ、悪い夢でも見たんか?」 言われた言葉に、が僅かに目を見開く。 そしてすぐに、肩を竦めて見せた。 何でもない事の様に、言う。 「夢を見る、見ない以前の問題って言うかね、 そもそもが眠くない。」 「夜更かしし過ぎると背が伸びんくなるぞ。」 寝る子は育つっちゅーからのう!とか何とか。 言って盛大に笑っている。 ・・・コイツ、いつか寝首を掻いてやろうか。 図らずとも冷ややかな目線を送れば、しばらく笑ったモーゼスが ようやく気付いたらしくて、ゴホンっと一つ、あからさまな咳払いをしてみせる。 「まあ、あれじゃの。」 「どれよ。」 「寝られん時は、羊を数えたらええんじゃ。」 「・・・・・また子供騙しな方法引っ張ってきたね、」 モーゼスじゃあるまいし、そんな方法で寝られないって。 言われて「そうかの、」と頭を掻く。 言ってる本人は、一応それで寝られるみたいだ。 ・・・頭の作りが単純な人は羨ましい・・・・。 なんて、思ったことはとりあえず黙っておいてみて。 「別に、だいじょうぶだよ。」 「あん?」 「珍しくもないんだ、たまにあるから、そういう時。」 一睡も出来ずに迎える朝。 たまに、そんな時もある。 何もこんな日に『そんな時』が来なくても・・・とは思うが。 それでも、珍しい事ではない。 モーゼスはしばらくを見つめた後に、 一歩近づいてその身体を引き寄せた。 彼よりも幾分も小さい身体が、モーゼスの腕の中にすっぽりと嵌る。 が「なっ・・・」とか、僅かに呻いた声も聞こえたが、 その声を掻き消すように「ほんなら、」と続けて。 の体温が、伝わる。 白い肌が、月に照らされて 不思議な色をしているのを見ながら、モーゼスは言った。 「寝られん夜は、ワイでも数えてみたらええ。」 「・・・・・。」 頭上から聞こえてくる、「クカカ・・・」と言う独特の笑い声。 何処か遠い気持ちでソレを聞いて、上半身裸のクセに、 いやに熱いこの男の体温を感じながら、一つ溜め息をついた。 「止めてよね、夢に出てきそう・・・・」 上半身裸の変態百人に追いかけられる夢・・・とか。 いっそ、そっちの方が悪夢だ・・・。 は溜め息を吐く。 それから、呆れた様に、ほんの少しだけ笑った。 「モーゼスみたいに馬鹿なヤツ、現実に一人いれば十分だって。」 その笑みに答えるようにモーゼスも笑い返してきて。 「数えるだけ数えときゃええんじゃ。」 「へ?」 「百数えるまでにゃあ、ワレん所までワイが駆けつけちゃる。」 モーゼスの言葉に、は少し考えた。 空を見上げる。 薄い闇のヴェールに、今にも落ちてきそうな星色のビーズ。 眠りに落ちた街は、静かだ。 ―― さて、 「悪くはない・・・かな。」 「あん?」 怪訝そうなモーゼスに、ジェイは笑って。 自分より高い位置にある顔を、 肩に手を掛け背伸びして、見つめた。 「それで?」 「あ?」 「今日はもう駆けつけてくれてるんだけど、どうするの?」 しばらく、目の前の顔は間抜けな顔をしていた。 していたけれども、その内意味を理解してくれば、 その顔は更に間抜けになって。 目の前の白い額に一つの口付けを落としてから やがて、言った。 「眠くなるまで、話にでも付き合っちゃるわ」 「ま、上出来かな。」 夜は更けたが、まだ長い。 |
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