空は快晴。
舳先は水を掻き、水面を滑る。

進め、進め!

彼女の嬉しそうな声。

その嬉しそうな声に答えるように、船は更にスピードを増す。

水の珠が、頬を掠めた。


「ちゃんと掴まってないと、危ないぞ!」


声を掛けるけれども、少女は聞かない。

いや、聞けよ。

心の中で毒づいた声など、聞こえるはずも無い。


「セネル!海の方まで出られないかな?」


「無理言うなよ・・・
 幾ら穏やかになったとは言え、こんな小船じゃ
 流石にムリだ」


「ちぇー。セネルのケチー」


「俺かよ!!」


口を尖らせる彼女に、思わず突っ込むけれども、
やはり彼女は聞いてない。


口に出した所で結果は然程変わらないから、
なんか少しやってられない気分になる。


湖の真ん中で、船を止めた。


一面を、水が囲う不思議な景色。

水面に移るどの景観も、この船の場所までは届かない。
自分たちの居る位置に姿を映すのは、ただただ空の青さだけだ。

上も、下も、深い蒼に囲まれて、いっそ眩暈すら覚える。



「セネル、セネル!!
 タイタニックごっこ!!」


「なんだそれは・・・・」


「わかる人にはわかる!」


古いかもしれないけどね!
言う彼女に、「なんなんだよ・・・」と頭を抱えた。

時々こう言った謎の発言をする彼女。

俗に言う『不思議ちゃん』属性だろうか・・・


「おい、あんまり端に立ってると危ないぞ」


「ヘーキヘーキ。
 風だって、こんなに穏やかなんだもん」


少女は楽しそうに、船の舳先で両手を広げて立っていた。

風がその髪をサラリと掬うと、擽ったそうに笑みを漏らす。


何がそんなに楽しいのだが。


正直、理解に苦しんだ。


そんな風に油断していたら、風が強く吹いた。
水面に高く立った波紋に船は大きく揺れる。


「えっ・・うわぁ!?」


舳先ギリギリに立っていた彼女の体もまた、
抵抗すら出来ないように大きくバランスを崩した。


「っ危ない!!」


彼女が落ちそうになるのを確認するが早いか、
手を伸ばして支えようとする。


―― だってのに


「っとぉ、危ない危な―・・・」


元々バランス感覚が良いのか何なのか、
器用な体勢で踏みとどまる。


焦ったような彼女の声は最期まで続かなくて、変わりに
水に何か大きなものが落ちる音と、大きな水柱が立った。


「・・・・セネル、楽しい・・・?」


「んなワケあるか!!!」


なんで彼女を助けようとして、逆に自分が落ちているのか・・・

なんか、すごく情けない気分になる


「水遊びにはまだちょっと早いよ、セネル〜」


「誰のせいだと思ってるんだよ!!」


「あはは・・・ごめんごめん。
 ホラ、手ぇ貸した貸した。」


ハハっと笑いながら手を差し出す。

癪に障ったから、その手を思いっきり引っ張ってやった。

途端、もう一つ立ち上がる水柱。


「だあぁ!!?ちょっ何すんの!!
 冷た!水冷た!!!」

「お前も少しは冷たい思いしろ!」


大騒ぎの彼女の腕は水を弾いて、更に髪や顔を濡らす。

文句を言おうと開いた口は、その水のせいで塞がれて

結局、まだ少し冷たさの残る湖の中で2人して騒ぐ。


「ほら、そろそろ上がるぞ」

陽も暮れて流石に寒くなってきた頃、セネルが船に乗って
手を差し出した。


大人しく乗せられた彼女の手。

途端、強い力で引かれて、また立ち上る水柱。


「さっきのお返し!!」


言って無邪気に笑った彼女に、言い返そうと口を開いたのだけれども、
結局その笑顔に負けて、口は紡ぐことになった。


予想も出来ない君の行動


頭に来る事も、指折りしても足らないくらいで

それでも、その無邪気な笑顔に

言い返せない自分は、相当君に侵され気味だ






君は愛しいフラッパー
振り回される事すら、嫌いじゃないんだ。










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