「人はね、幸せになるために生まれてくるわけじゃないよ。」 小春日和。 唐突に嫌なことを言った彼女に、思ったままに嫌な顔を送る。 彼女はにっこりと、微笑んだ。 こちらの心情など気にした風もないような この春の日差しが似合うような笑みで 嫌味か。 ちょっと思ったりもしなくない。 「何なんですか、急に。」 先日から続く温かな陽気に誘われるように 綻んで来た花の様子を見に行こう、と誘ったのは彼女で 見に行ってみれば案の定、花々は満開でもないが 見頃と言うに丁度良い咲き具合だった。 これは、ノーマに言ったらきっとお花見だ〜って騒ぐね、 まったく、あの人は宴会好きですからね、 やだなぁ、私達だってそれに付き合ってるんだもん、相当でしょ?と まあそんな感じの会話をしてきた流れで、それだ。 独り言のような、けれどもその言い回しは、明らかに自分に向いている。 「う、ん――」 やはり嫌そうに言ったら、彼女はツイと視線を上げた。 その先には、淡い色が、風に柔く揺れている。 何よりも早く春を知らせる、桜色 他の花が春が追いついた頃、一足早く散ってしまう 春の象徴のような、その花 「ただね、幸せだなって思っただけなんだ。」 「はあ・・・・?」 「思ったんだよ、唐突に。」 「・・・・唐突過ぎて、追いつけませんよ。」 少し痛んだような気がする頭に手を添えながら言うと、 彼女は――はカラカラと笑っていた 「生きる事も死ぬ事も、ただの現象で意味なんかなくて 誰も彼も、幸せになる事を決められて生まれてきたわけじゃないって。」 「・・・・・そんなの・・・当たり前でしょう。」 生と死は、あって然るべきこの世の現象だ。 幸せになる為に生まれてきた? 戯言だ。 それだったら、自分は――― 「・・・・・幸せになりたいと思うのは、 生きる人間の単なるエゴですよ・・・・」 「うん。」 生まれたからには、幸せになりたいから 例え無様に足掻いてでも、生に縋る。 例え――例え、足掻いてでも縋るのだ 明日は幸せかもしれない、『今の不幸な自分』に 「・・・・・・・幸せ・・・だよ、私は。」 は、言った。 サラリと、髪が柔らかに頬に落ちる。 春の日差しを浴びて、ほんの少し、透き通る髪に なんだか無性に、愛しく思った自分が悔しかったりする。 これは、自分が手に入れた幸せだ。 『少し前までの不幸だった自分』が 足掻いて、足掻いてようやく手に入れた、幸せ―― こうやって、暖かい太陽の下 淡く高い春の青空を背景に、桜の並木を歩きながら そして隣には、彼女が居る 「・・・・・・・・不本意ながら、」 溜息を、間に挟んだ。 あからさまな照れ隠しが、逆に少し恥ずかしく思う。 彼女も分かっているから、笑った。 「僕も・・・・思いますよ。」 幸せだって。 人は幸せになる為に生まれてきたわけじゃない。 幸せを思うために、辛い事があるわけでもない。 そうだとしても、自分の赤黒い過去は納得の行くものではないし その罪は、許されるものではない。――分かっているのだ それでも、自分は生まれてきたから 例え――例え親に捨てられ、道具と使われた自分でも 自分は此処にいるから、 此処に、生きているから 幸せになりたいのだ、どんな事をしてでも 願わくば、穏やかな幸せを 全ての人になんて、偽善は言えない。 世界を見れば、自分のような命も少なからずある けれども、それを自分は知っているから 思うのだ この手が届く限りの、自分の大切な人たちと その横で笑う、自分が居て 幸せだ、と、こんな風に言い合っていられたら、と 「お花見・・・だねぇ」 「また、騒がしくなりますか、ね。」 「嫌いじゃないでしょ、そんなのも。」 「嫌いなら、参加してませんよ。」 「あはは、だーよねー」 何だかんだでノリ良いんだから、と肩に触れるその指に 微かに跳ねる心臓が、もうどうしようもなく憎たらしくなりながら 何だか、少し情けないような笑みで、返した。 「・・・・・本当に、」 「ん?」 「嫌いなら、一緒に居ないんですから・・・」 「・・・・・うん。」 意味を分かってるんだかいないんだか、 自分の言った言葉に頷いたは、ギュっと自分の手を取った。 「これからも、私の事たくさん幸せにしてね、ジェイ」 クスクスと笑いながら、けれども真摯な眼差しで言われた、ソレ。 「これからも、僕の隣に居てくれるなら、ですね、さん?」 口元を笑みで象りながら、真っ直ぐにその瞳を見て言った。 風が、吹く。 いつの間に、季節が巡ったのか 北風はまた1年、姿を消した。 温かな風と、春の日差しと、揺れる桜の花を見つめて 右手を繋ぐ、柔らかな温もりに 自分はどうしようもなく、幸せに 幸せに、なりながら――――・・・・・・ |
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