船が、北へ北へと進む。 空は高くて透明で、最近増した肌寒さに拍車を掛けていた。 北風が吹いて、剥き出しの肌を嬲る。 思わず首を縮めると、先を歩くチャバが歩調を緩めた。 「平気?」 「辛うじて・・・って言うか、なんでチャバは そんな格好してて寒くないのよ・・・・」 あ"ー寒い。 言って自らの肩を抱けば、冷えた手に、逆に冷やりとさせられた。 チャバは「鍛え方が違うんじゃない?」と笑うけれども・・・ 「そんなワケないじゃないの。 小っちゃい時から一緒に野山駆けてたんだから。」 「んー・・・なら、男と女の違いじゃない?」 「もしそうだったら、女も割と不便ね。」 「不便って点では、きっと男も負けてないと思うよ。」 だからきっと、男と女で助け合って生きてるんだろうね。 やっぱり、チャバは笑ってた。 は不満そうに肩を竦める。 「本当に、世の中って不平等だらけ。やんなっちゃう。」 「そう?」 「・・・・少しだけね。」 尋ね返されて、少し考えて、返した答えは、それだった。 「不平等な事も、助け合えばたまには何とかなる事もあるし。」 「あはは・・すごく低い割合だけどね?」 「そうなのよねぇ・・・。 そう考えると、やっぱりちょっと嫌になるわ。」 それでも、そうして手を取り合った人たちの温かさとか 笑顔、時に衝突しあったりしたそんな事までも含めて、 意外に悪くなかったりするから。 だから、嫌になることもあるけれど、それは『少しだけ』。 そうして集まった『家族』が、周りに居るから。 「それに、ちゃんと全ての人に用意された平等もあるしね。」 「・・・・何?それ。」 は怪訝そうに言った。 平等な事って言われて、咄嗟には何も思い浮かばなかった。 だって、明らかにこの世界は不平等の方が多くて。 貧富の差、能力の優劣、此の世界は、どこまでも不平等―・・・ だから、そんな風に簡単に言葉に出来る平等と言うと、 とっさの事では思い当たらなかった。 けれどもチャバは、少し間をおいて、言った。 吐いた息が白くなって、ゆっくり形を崩しながら、風に消えていく。 「生きる事と、死ぬ事。それと、誰かを愛する事。」 でも、最期は意外に難しいんだけどね。 チャバは笑う。 を見つめて、丁寧に言葉を選んで。 「愛が必ず報われるとは限らないから。 誰かを愛しても、愛してはもらえないかもしれない。 誰かに愛してもらっても、愛する事はできないかもしれない。 愛し合っていたって、傷付けあうかもしれない。」 「そんなの・・・当然じゃない。 自分の愛だけを押し付けるだけなら、それは単なるエゴよ。」 「うん。でも、誰かを愛する事だけは、平等だよ。」 「まあ、ね。」 頷いたを確認してから、「だからさ、」とチャバ。 「オイラ、結構幸せだよ。」 「ん?」 「を愛せた事も、に愛してもらった事も。 こうやって、不平等の中ででも、まあ、 喧嘩もたまにはするけどさ、それでも、ちゃんと手を繋いでいられること。」 「・・・・。」 「オイラは、幸せだよ。」 「・・・奇遇ね。」 「うん?」 「私もよ。」 答えたの言葉に、チャバはやっぱり、笑って。 その冷えた肩を少しだけ、引き寄せて。 二人の吐く白い息が、棚引いて消えていく。 「戻ろっか。が風邪引く前にさ。」 「・・・本当に、同じように育ってきたのに なんでチャバだけそんなに丈夫に育ったのかしら・・・」 「あはは・・・なんでだろうね。 でも、お陰でが風邪引いた時には付きっ切りで看病出来るよ。」 「反動で、いきなりどーんと風邪引かないでよ?」 「その時はが看病してくれるだろ?」 「ま、普段の行いにもよるかな。」 「・・・・・。」 「・・・・冗談よわかったわよちゃんと看病してあげるってば。 わかったからそんな目で見ないで頂戴。」 そんな捨てられた子犬みたいな目で見ないで頂戴よ。 「まあとにかく、街に戻ったら 体温の低いの事をあっためてあげないとね。」 「・・・火に当たってればあったまるもん・・・」 「だーめ。」 「えー。」 言って、本当に嫌そうな顔をしたに、 チャバが少し困ったように笑って。 「モーゼスがうるさいんだもん、チャバとくっついてると。」 「兄貴は――・・・ほら、の事大好きだから。」 「いい加減どうにかならないかしらね、あのブラコンもどきっぷり。」 「でも、嫌いじゃないんだろ?」 「うん、まあ。」 満更でも無さそうに頷いたの頭を、チャバの大きくて熱い手が ゆっくりと優しく、撫でて乱した。 その手を取って頬に付ければ、冷えた頬にいつもより余計に熱が伝わる。 そっと目を閉じると、額に口付けがおりてきて。 「・・・好きだよ。」 言って、2人で笑いあった。 愛する事が平等でも 愛が必ず報われるとは限らないわけで それでも、こうして手を取り合えた偶然が、自分たちにはあって。 「・・・あのね、チャバ。私も―・・・ チャバの事を愛せたっていう事が、すごく幸せ。」 「奇遇だね、オイラもだよ。」 貴方の事を愛せた、それ自体が、私にとってはすごく幸せ。 |
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