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優しいけれど、残酷な人
強いけれども、不器用な人
愛したけれども、愛せない
欲した言
葉
、望んだ
未
来
さわりさわりと、風に揺れる木々の声を聞く。
やがては、この地も戦争に騒がしくなる。
今は、まるで嵐の前の静けさとでも言うように
静まり返っている。
鳥の声さえ、聞こえない・・
溜息を一つ零すと、後ろでパキリと
小枝の折れる音がした。
驚きもせず、振り返る。
思ったとおり、彼が居た。
「やー。めっずらしいねぇ・・ワールチン♪」
おどけてその名を呼んでみせる。
気難しい彼の顔が、更に顰められた。
「何処かの陸の民の様な呼び方をするな。」
「ノーマさんね。
名前があるんだから、ちゃんと呼びなよ」
言うと、彼・・・ワルターは憎憎しげに言葉を吐いた。
「誰が、陸の民の名など・・・っ!」
その様子に、郁音は溜息を吐く。
「・・・・そんなに、陸の民が憎いのかなぁ・・・」
確かに、今までの陸の民の水の民に対する仕打ちと言えば酷いものだった。
憎しみが湧くのも、同じ水の民としてわかる。
自分だって、自分に近しい者を、陸の民に殺された口だ。
けれども、憎しみから生まれるものはないと・・
それだけは、自分にだって分かってる。
しかし、その呟きは
彼にとっては憎しみを熾す以外の何ものでもなくて・・・
「お前は、なんとも思わないのか!?
同胞の受けてきた惨い仕打ちを見て、何故そんな事を口に出来る!!」
その怒り様に、郁音はまた深く溜息を吐く。
だから、そうじゃなくて・・・
「憎いよ。そりゃぁね。
私だって、陸の民は憎くてしょうがない。
・・・・でも、ただ憎みいがみ合うだけじゃ、何も進まないでしょう」
ただ、その間に血が流れ、
また多くの憎しみが生まれる。
戦争の間に生まれるのは、それだけで
憎しみとは、それだけのことだ。
ワルターは、その言葉に尚々顔を険しくするばかりで、
やれやれ、と。
郁音は溜息が尽きない。
「シャーリィさんがね・・」
シャーリィ・・・
メルネスのその名にワルターが反応する。
「言ってたんだ。
ワルターはただ不器用なだけで、
水の民を良く思っている、すごい優しい人だって。」
そんな事、言われなくても
自分が誰よりも知っているのに・・・
ワルターの・・・・彼の、不器用な優しさは
自分が何より分かっている。
彼女に、言われなくたって―・・・・
「今度会ったら、否定しておくわね。
『ワルターは確かに水の民を思っているけれど、
特定の人には、とても酷いわよ』って。」
肩を竦めて見せる。
「・・・・余計な事を言うな。」
怒気を含む、絞り出すような言葉。
「そう・・・よね」
その表情に、言葉に
感情は大きく揺れ動く。
ムリヤリの笑みを、顔中に貼り付けた。
「大事な『メルネス様』だものね?」
大事な、大事な・・・・
貴方の心の中には
『メルネス』
その人の事しかないんだから・・・
貴方の隣の席は、彼女の名前しかないんだから
「・・・・どうしたんだ?」
「何が?」
「・・今日は、ヤケに突っかかる」
突然、柔らかくなる語調。
ホラ、また揺れ動く。
グラグラと不安定に、君のほうへ心が傾く
「・・・急に、随分とお優しいことね」
「どうしたんだと聞いている。」
話を逸らすことも、許さない。
肩を竦めて、無理矢理の溜息を出した。
呆れたように見せるための
泣くのをこらえるための息・・・
「やっぱり、特定の人に
ワルターは酷いわ・・・」
「郁音?」
名前を呼ばれる。
それだけでも、愛おしいのに
貴方には、もうその心を支配する人が居るじゃない・・・
なのに・・・
それなのに・・・・
「今更・・・言えって言うの?」
『貴方の隣に居るのが、私だったら良かったのに。』なんて
今更―・・・・・
― fin...
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