忍者の別称は『忍』 既に『者』ですらない、心無き物。 時々、思う。 もし、自分があの時のまま、暗闇に沈んでいたらと。 時々、思う。 もし、自分があの時のまま、人を殺す事に罪を覚えていなかったらと。 その罪を知らない事は、何よりの罪であったけれども、 それでもあの頃のままだったなら。 自分は、それが罪である事すら知らないままで、 その罪の重さに苛まれる事も、眠れない夜に恐怖することも無かった。 それはあくまでも己にとっての楽な道。 それでも時々、どうしようもなく思うのだ。 「ジェイ?」 落ちてきそうな程の小さな光が、夜の薄いベールに張り付いている。 その様子を、野営地から少し離れた場所で眺めていた自分を呼ぶ声に 特に驚くでもなく、ジェイは振り返った。 その先には、一人の少女が、まだ眠そうに目を擦り立っていた。 「どうしたんです?さん」 「ん、起きたら、ジェイがいなかったから。」 ほんの少しまどろいだ声で答えて、それでも そっと、冷たい夜風に身を曝しながら深呼吸して 彼女は眠気を追い払う。 そして、さっきよりも僅かにハッキリした声で、 「隣、良い?」と尋ねてきて。 特に拒否する理由も無いジェイは、それを簡単に了承した。 間が、空く。 居心地悪い沈黙ではなかったけれども、 何だか、この薄い闇の中に自分が溶けていってしまいそうで、 少し、寂しいような気分になる。 「何か、考え事?」 「ええ、まあ。」 「ふーん?」 「・・・・気になりますか。」 「ちょっとね。」 彼女は、特に誤魔化すでもなく、そう言って素直に頷く。 それから、カラカラと笑って、からかうように言う。 「だって、それが好きな女の子の事だったりしたら大変じゃない?」 「何の話ですか・・・」 「そういう話。」 そう言って、笑う声が闇にすうっと溶け込んでいく。 星が瞬く空。 一つくらい落ちてきて、触れられないか、なんて思う。 「そんなんじゃ、ありませんよ。」 「ん?」 「気にしないで下さい。 馬鹿みたいな話なんですよ。」 「・・・それでも気になるかなー・・って、 言ったら、どうする?」 「相当な悪趣味ですね。」 「ああ、やっぱり?」 それでも気になるんだよねー、と。 ジェイは肩を竦めて見せる。 「良いんですよ。」 その呟きに、が首を傾ぐ。 夜の風が吹く。 冷えた頬には、痛いくらいの冷たさだった。 「その馬鹿みたいな話を、僕は今、 くだらない事だと言って、笑えるんですから。」 忍者の別称は『忍』 既に『者』ですらない、心無き物。 時々、思う。 もし、自分があの時のまま、暗闇に沈んでいたらと。 時々、思う。 もし、自分があの時のまま、人を殺す事に罪を覚えていなかったらと。 時々、どうしようもなく思うのだ。 そして、それを何て愚かな事なのかと、言える自分がいる。 見上げた星空が、綺麗だと思う自分がいる。 夜の風の冷たさを、気持ち良いと思える自分がいる。 こうして彼女と話す時間を、喜べる自分がいる。 彼女の笑顔に、救われている自分がいる。 そして、それらの事に気付ける自分がいる。 「・・・ありがとう御座います。」 「何?突然。」 「良いんです、受取っておいてください。」 「・・・?どういたしまして。」 は納得していない様子だったが、そう言って頷いた。 罪の恐怖に苛まれる事は苦しいけれども、 今こうしている時間を思うと、勝てない。 時々どうしようもなく思うんだけれども、 あの頃に戻りたいとは思えないのだ。 「ねえ、ジェイ。」 「はい?」 「もう少し・・・そばに行っても良い?」 「・・・構いませんよ。」 こうしている時、僕はどうしようもない位に人間だから |
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