街の喧騒、賑わう人々

落ちて来る水が、水面にぶつかる重い音。


幾ら春が来たとは言え、飛沫が当たれば流石に冷える。


それでもジェイは、噴水の縁に腰掛けたまま、
情報収集に余念がないし


自分は自分で、その隣から動こうとしない。


お互い物好きだけれども、そろそろ此方は退屈になってきた。


忍耐と言う点においては、幾らなんでもコイツに劣る。


けれども何か会話がある訳でもないし、退屈な時間は過ぎていくばかりで。


欠伸交じりの溜め息も、もう幾度目かになる訳で、
その度に、ジェイに迷惑そうな視線を向けられるのも
もう何度目だったか覚えていない。


けれども別に、じゃあジェイの隣から動いたなら何か変わるかと言えば
結局の所そうでもないし、とりあえず今日は、何処にいても
退屈に過ごさないといけない日なんだろう、多分。


だから、特に謀ったとかそう言うのじゃなくて


ほら、あんまり退屈だとあるじゃないか、そう言うのって。


思いついた事、ただポロっと言っちゃう事とか、あるじゃん、時々さ。


・・・・・あるんだよ、うん。


「ねー、ジェイー。」

「はい?」

「愛してる。」

「・・・・・・はい?」


あ、赤くなった。


冷静に言うに、けれどもジェイはそうはいかない。


ゆでだこ状態とはよく言ったものだけれども、
それにしても、よくもまあ、赤くなったものだ。


辛うじて返答――と呼べるかも分からない様な返事――を返したまま
すっかり固まって動かない。


「ジェイー、目ぇ開けたまま寝ないでー?」

「ね、寝てません・・・けどっ
 な、何なんですか急にっ!!」

「やっだ、愛してるって言っただけじゃない。
 愛してるって言葉にも色んな意味があるわよー?」


母性愛に父性愛とかさ、友愛とか?


博愛、偏愛、共愛、隣人愛――


愛の範囲も、結構広い。


言われてジェイは、そりゃそうですけど・・・と
何処となくふくれっ面で


それじゃあ、と腕を組んで、軽く睨むような表情だった。


「今のは一体、どういう意味合いで言ったんですか」

「んー・・・そうねぇ」


そう返ってくるのも、大体は予測していたけれども

やっぱり、本当に聞かれると困ったもので。


愛してる、


その言葉で間違いはない


けれども、その広い意味の中から、どの言葉がしっくり来るだろう


そう思うと、正直答えは分からないもので


多分、一般的な愛してるの意味で良いんだろうけれど
それじゃあ一般的な愛って何だよとか。


考えると、随分難しい方向に思考がいってしまう。



「・・・・何パンクしてるんですか」



頭から煙出そうな顔してますよとか言われて

しまった、表情にまで出てた

おおうっ、とか。

かなり気の抜けた返事を返してから、膝の上で頬杖を付いて
再び、思考を出来るだけ簡易化させて、考える。


答えはきっと、そんな物で出るほど単純なものなのだ。



「まあ、多分さ」

「はい?」

「要は、好きって事なんだと思うんだ」

「・・・・また、曖昧ですね」

「しょうがないじゃない、曖昧なんだから」



好きって言葉にもいろいろあって

やっぱり、意味を一つに限定してしまうと難しいし

でもきっと、色々な意味を含んでこそ
『愛してる』とか『好き』とかの言葉になるんだろうから


この曖昧な気持ちもきっと、その言葉からは漏れていないと思う。


「・・・まったく」

「ん?」

「それじゃあ、単に言われただけ何だか
 告白されているんだか分からないじゃないですか」

「あはは・・・後者後者。
 折角だから告白してしまったことにしよう」

「何ですかその成り行き任せな言い方・・・」

「いや、そうなのよ。
 考えてみれば今のって告白だよね」

「訳分かりませんよ」

「まあホラ、好きって事と愛してるって事が伝わってれば良いわ」



何か、伝わったのかも怪しいんですけどね


難しい顔してジェイは言う。


でもきっと、気持ちだけは伝わったから
彼はまだ赤い顔のまんまだし、難しい顔をして
ちょっと拗ねたようにそっぽを向いている。


風が吹いて、春の匂い。


よくよく考えてみれば、こんな所で告白ってのも
またムードの無い事だったな、とか。


言ってしまったこちら側は、軽く余裕綽々だ。


「・・・愛してるとか・・好きとか・・・」

「ん?」

「そんな、単純な話じゃないですよ、」

「うん」

「それでも、それしか言い表せる言葉がないのなら・・・」


僕はきっと、貴女が好きで、愛してるんでしょうね


そう、赤い顔のままで

けれども、随分と冷静な様子で言ったジェイに


そうだね、と


自分も多分、赤くなってるだろう顔を、
噴水の飛沫に曝しながら、そっと目を閉じて


ああもう、さっきまでこの噴水の飛沫が
冷たくてヤダとか思っていた自分は何処に行ったんだ


火照ってしまったらしい肌には、ほんの少し気持ち良い位の冷たさで


「・・・まあ、あれだね」

「はい?」

「これからどうするかは・・・さ、
 これからゆっくり、話でもしようか」

「・・・一応、仕事中なんですけどね、僕は」

「あはは・・・だって目ぼしい情報、何かあった?」

「悔しい事に、まったくです」

「でしょ?」


ほら、やっぱり


今日は退屈に過ごさなければならない日なんだろうから


こんな会話で暇潰ししてたって、悪くはないはずだ。


ジェイはジェイで、その場から動かないし

自分は自分で、この場から動かない


先ほどと変わらない状況で、
けれども確実に変わった何かがあって、


「まずは、何から話そうか?」


その答えもきっと

2人で話しているうちには、見つかるんだろう








愛してるとか好きだとか
そんな単純なものじゃないけれど、答えはきっと単純だろう



- CLOSE -