子供は逃げ惑う 女は泣き叫ぶ 男は家族を護ろうと刃物を手にし 最期は 何も残らない 紅い雨が降る 手にはまた、落ちることない血に染まる どんな雨もきっと この染み付いた血の痕は 落とせない―・・・・・ 繋 いだ 手 に伝わった温もり 「っ!?」 誰かの叫ぶ声で目が覚めた。 ソレが夢の中の出来事だったと気付くのに 数分が必要だった。 上がる息に比例して、被る布団も上下に動く。 部屋は、思ったよりも明るく感じる。 時を暫く使って、此処が借りた宿屋だと気付いた。 外はまだ暗い。 明るく見える部屋を照らすのは、外で白く滲む月だけだ。 今宵の月は、大きく満月 今日の月は綺麗だ。 息もやっと整う頃、ジェイはベッドから起き上がった。 嫌な寝汗を拭って、部屋の扉に手を掛けた。 戸は、思ったよりも軽く開いた。 外気は、鋭く頬を撫でて痛いほどだった。 息をするのも躊躇うほど、空気は冷たい。 澄み切った空に、大きな月は高かった。 「だから・・・イヤなんだ・・・・」 時々こうして、思い出される事柄。 今の生活が暖かすぎる分、こうゆう時は、深く恐怖に根付く。 忘れていた罪は、奥底で渦巻く。 今では色褪せる記憶。 それでも、鮮明に思い出せる記憶。 吐気がするほどの、血の匂い 耳を覆いたくなる、断末魔の叫び 頬に触れる、生暖かい感触 肉を断つ感触は、今でもまだ鮮明に―・・・ 一時は忘れる事は出来ても、消える事はない。 もう何年も経つのに、時折この手が紅く染まったように錯覚する 消える事無い、紅い罪―・・・・ ふと、背後で人の気配がした。 驚いて振り返れば、相手もまた、その行動に驚いたようだった。 「・・・さん・・・・」 「こ、こんばんは。」 ほぅっと息をつくと、相手も緊張を緩める。 咄嗟にポケットの中で握った小刀を離した。 ホラ、これだって あの頃からのクセ・・・ 『背後に近づく者は、容赦なく―・・・・』 「出て行く音が、したから・・・」 意識を引き戻す、戸惑いの声。 彼女は、ノーマと同室、ジェイの借りた部屋の隣に居た。 「・・・・そうですか・・。」 呟くと、力ない白い息が夜空に消える。 「・・・寝られなかったの?」 「えぇ。まぁ。」 「大丈夫?」 「心配には及びませんよ。」 肩を竦めて見せる。 表情は、平静に。 心に巣食うのは、苛立ち。 理由は知れない。 表情と心は裏腹だ。 彼女が此処に居る事が今、どうしようもなく腹立たしい 腹立たしくて、不安さえ抱くほどだ。 このまま、彼女を傷つけてしまいそうで―・・・・ 「少し、夜風に当たりたかっただけですから。 もう戻ります。」 そう言って、早々との横を通り過ぎる。 けれど、その手をの手が引きとめた。 「顔・・・蒼いよ?」 「っ触るなっ!!!」 掴まれた手から、何かを蝕む様な不快感が押し寄せて、 声を荒げてその手を払った。 乾いた音と怒声は、思ったよりも闇に響いて、 呆然と驚くに、荒がる息で言う。 沸き起こるようなこの感情に、自分でも戸惑うしかない。 「触ら・・・・ないで下さい・・・・。 ぼくの手は・・・・血で、濡れている・・・」 嗚呼 きっとこの感情は、貴女のせいだ・・・ 貴女は、綺麗すぎるから・・・ だから・・・相反するから・・ 腹立たしい 不安にさせる 自分が触れたら、汚してしまいそうで・・・ は、ゆっくり歩みを進める。 逃げようとするジェイの腕を掴んで、両の手を 自分の両手で包み込んだ。 優しく覆う彼女の手は、暖かくて・・・ 「ジェイ・・・」 名を呼ぶ。 心が震えて、肩が揺れる。 まるで、怯える様に・・・・ は、そんなジェイにゆっくりと 言葉を紡いだ。 「血は・・・洗えば落ちるんだよ」 驚いたように、その顔を見上げる。 凛とした瞳は真っ直ぐに、自分を捕らえていた。 「罪なら、償えば良い。過ちは、正せば良い。 間違いは、忘れる事は出来ても消せない・・・。 でも、ソレを償う事は出来る。」 暗闇に響く声は、優しくて 冷えた夜に、暖かい。 「この手は、人を助ける事ができる」 そして、ニコリと微笑んだ。 闇に淡く滲む 「私は、この手が好きだな」 そう、月に照らされる笑顔を―・・・・ 「私なら、そんな事じゃ壊れないからさ。 心も体も、丈夫に出来てんの。」 へへへ・・・なんて、力ない笑み。 けれども何処か、強い笑み。 「・・・そう・・・みたいですね・・・・。 心配して、損しましたよ。」 「ぃーぇっ、どういたしましてーっと。」 皮肉とわかってか、わからずか・・・ 前者であるとは思うが、何とも言えない。 そんな言葉を返して。 ジェイの表情から、『恐怖』と言う言葉が薄れたのを確認して・・・ 「ありがとう・・・ございました」 「・・・・どういたしまして」 夜空は、朝焼けに白く滲み始める。 闇は光に薄れて、やがてその身を隠すだろう。 「もうすぐ、夜が明けますね」 「うん。そだね。」 淡く清らかな空気の中、ジェイが口を開く。 闇を、光がゆっくりと侵していた。 「どうせなら、日の出でも見ていきません?」 「・・・・・そーだねぇ。」 やがて姿を現すであろう黄金の光を待つ そんな、薄暗い闇の中 2つの影がそっと 手を繋いだ。 ―fin.... |
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