ちらちら、ちらちら。 雪が降る。 空から零れ落ちてくる、白い綿雪。 見上げる頬に触れて、熱に解ける。 自分の体温がその度に奪われていくのは分かったが、 それでもぼんやりと、は空を見つめ続けた。 やがては平衡感覚を失って、 ふらりと軽い眩暈を覚える。 踏みつけた地面に降り積もる雪が、 ギュッと苦しそうな音を立てた。 外に出たのはほんの散歩気分で、何となく 家に戻ろうと出来ないのは、今の気分だ。 ちらちら、ちらちら。 雪が降る。 遺跡船が真っ白に、戻っていく。 元々然程体温は高くないせいか、 凍えるほどに寒いとも感じない。 時々、本当に自分には体温があるのか 疑問に感じる程に、自分の体温は低くて。 ―― 夏には重宝されるが、 冬にはまあ・・・あまり喜ばれはしない。 曖昧な寒さの中でただぼんやりと、 遺跡船の朱が染まっていく様子を見ながら。 やはり冬のせいなのか、中々外に出ている人間も少なくて 聞こえてくる会話は、 最近は北に向かっているから冷え込むだとか、 積雪量がここ数年で一番多いだとか。 季節の会話もそのままに、冬色の内容が大体を占めていた。 ちらちら、ちらちら。 ねずみ色の空から重たそうに落ちて来る、雪。 寒くは、ない。 ちらちら、ちらちら。 雪が降る。 空から零れ落ちてくる、白い綿雪。 ぼんやりと、は見つめ続けていた。 「ぶえっくしょいっ!!」 そんな中で、一つ。 品のないくしゃみを聞きつけて、嫌そうに振り返る。 「・・・・モーゼス・・・・。」 予想したとおりの人物が、噴水広場に足を踏み入れて 北風に曝しっぱなしの上半身を擦りながら 此方に近づいてきていた。 ・・・しまった 話し掛けないで他人のフリをしておくべきだった・・・。 思ったけれども、もう遅かった。 「オウ、嬢。奇遇じゃの。」 「・・・・・ソーダネー」 「何じゃい、その嫌そうな顔は・・・。」 自分から話し掛けて来おったくせに・・・とモーゼス。 だから後悔しているんじゃないかとは 言い返せない。何となく。 「・・・いい加減、モーゼスも冬支度にしたら?」 見ているコッチが寒そうだよ・・・ 訴えるけれども、とりあえず目の前の男は気にしない。 気にしないけれども、気にしてくれと思う。 「ワイは鍛え方が違うからの、風邪なんて引かんわ!」 「モーゼスが野生児なのは知ってるけどねー。 だったら、さっきの盛大なくしゃみは何よ?」 「あれは・・・アレじゃ。北風の悪戯じゃ。」 「何処の乙女ですかアンタは」 しかも相当時代遅れの・・・。 不自然な様子で目線を彷徨わせるモーゼスに、溜め息をつく。 「ワ、ワレこそ・・・っ」 苦し紛れの様な口調で、モーゼスがそう言い募り始めた。 「こがあな処でなにしとるんじゃ!」 「ん、ただの散歩。」 「・・・・この天気でか」 「うん、ちょっと失敗だったと私も思った。」 ワレも十分馬鹿じゃの・・・ 言われて深く傷ついた。 モーゼスは、呆れたような息を吐く。 「ワレの低い体温の方が、ワイは心配じゃの」 「わっちょっ何すんの!!」 言うが早いか、モーゼスが手を伸ばして の頬に触れる。 途端、思わず声を揃えて顔を見合わせてしまった。 「「・・・・・アレ?」」 触れた手の平は、頬に冷たさを伝える。 ひんやりとした其れに、逆に鳥肌が立った。 「わ、ワイの方が体温低い・・・みたいじゃの。」 少し引き攣った声で、モーゼスは言う。 暖めてやるつもりが、逆に自分の体温の方が低いと 何だか拍子抜けした様子だった。 「・・・・そのようで。」 多少の驚きを孕む声で、。 頬に、冷やりとした人の肌の感触。 死体のソレとは違う、 まだほんの少し、温もりのある肌。 が、溜め息をついた。 「私より低い体温の人なんて、初めて見たよ。」 「ワイも、まさか嬢の体温で 暖を取る日が来るたぁ思わんかったわ。」 「・・・・勝手に人で暖を取ろうとしないでくれる?」 「クカカ・・・固い事は言いっこなしじゃ。」 「あっ、こら・・・!」 言うのだけれども、本当に手が早い。 自分の小さい体は、モーゼスにすっぽりと包まれて、 頬に、剥き出しの肌が触れる。 ひやりと、やはり自分の頬よりも、冷たい肌だった。 「・・・こんな事してないで、 さっさとアジトに戻って、火で暖を取ったら?」 本気で風邪引いても知らないよ? の言葉に、笑い声が落ちて来る。 「人肌の方が、割と暖まるもんじゃ。」 何を馬鹿な事を・・・。 思うけれども、当の本には満足そうで。 嬢は暖かいの〜とか、呑気な声。 ―― 夏は重宝されるが、冬は余り好まれない。 ―― 時々、本当に自分には体温があるのか 疑問に感じる程に低い、自分の体温。 暖かいと、この男は笑う。 「・・・・ねえ、モーゼス。」 「あん?」 「私・・・ちゃんと生きてる・・・?」 ポツリと漏らしたの言葉。 モーゼスが、僅か驚いたように息を呑む音。 耳が、モーゼスの冷たい肌に触れているせいか、よく聞こえた。 暫くの間の後、いつもの笑い声が、 耳をくっつけた胸の中で、少しくぐもった響き方で聞こえた。 「当たり前じゃ。」 ハッキリと、そう言った。 不安なんて馬鹿みたいな物を、 平気で吹き飛ばすような声音だった。 「ワレは生きちょる。ワイも、生きちょるわ。」 安心せい。 ハッとするほど柔らかい声で、言われた。 モーゼスの腕が、より一層強く回される。 が、僅かに身を捩った。 「・・・いい加減、離れてくれる?」 こんな大衆の面前で何すんの、と。 「嬢が泣き止んだら、離れちゃる。」 「・・・・・。」 モーゼスが笑い、少し腰を低くして、確かめるようにその頬を の耳元へと当てる。 ほんの少し震えていた身体を、更に包み込んだ。 「・・・・・冷たいんだけど。」 「その内には暖まるじゃろ。」 「・・・・寒い。」 「雪が降っちょるんじゃ、当たり前じゃの。」 モーゼスが、笑った。 ちらちら、ちらちら。 雪が降る。 空から零れ落ちてくる、白い綿雪。 頬に触れて、2人の熱に解けていく。 ちらちら、ちらちら。 ねずみ色の空から重たそうに落ちて来る、雪。 寒かった。 それでも、暖かかった。 |
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