ふわりと、舞い込んだ


季節外れのたんぽぽの綿毛。


足元でくるくると回って、楽しそうにステップを踏んでいる。


何となくそれを見つめていれば、マスターによってひょいっと拾われて。


「まーったく、何で部屋に入ってきちゃうかね」


ちゃんと土のある所に行きなさい、と。


わざわざ窓を開け放って、風に乗せた。


白い綿毛は、ゆらゆらと揺れて。

その先に付いた灰色の種は、
すぐに空の色に溶け込んで、見えなくなった。


それを不思議そうに見ていた自分に、
フと気付いたように彼女は振り返って。


困ったような、笑いを見せた。


「何処かで花を咲かせてくれると良いね、あのたんぽぽ。」

「そう・・・ですね」


「うん、何となく風に乗せた綿毛から、幾つもの命が繋がっていくんだよ」


すごいね、と


そんな風に言いながら、窓を閉めた。


自分も割りと不思議な奴だと言われるけれど、
彼女も大概不思議な人だ。


特に、自分には人間の様に限られての命と言うものがないから、
余計にそう感じるのかもしれない。


彼女は、命は大切だという。


生きている事はとんでもなく面倒で、大変で、厄介で


けれどもどうしようもなく楽しくて嬉しいと。


マスターの紡ぐ言葉は好きだったけれど、
それだけは、いまいち共感のできないところだった。


世の中には、命は悲しいと悲観する人も多くいて、
自分も、何となくではあるのだけれど、そちらの方が感覚として
正しいものなのではないかと思ったりして。


それでも彼女の楽しそうな顔を見ていると、まあそうなのかな、なんて


思ってしまう自分は、中々に現金な奴だったと思う。


そんな夏の一間を思い出したのは、若くして他界する事になってしまった、
彼女の微笑がフと恋しくなったからで


世の中には命を悲観する人がいて、そんな人間たちに、
命は楽しいと笑った彼女が、奪われていく。


フェアじゃない世の中だなと、思った。


それでも彼女は笑うのだろうか、命は楽しくて嬉しいと。


やっぱり不思議な人だったなと思う。


ああ、あのたんぽぽは、花を咲かせただろうか。


幾つもの命が、たった一つの綿毛から繋がっていく。


すごいですね、と


今なら彼女に返せる気がした。


彼女の命が、あのたった一つの綿毛から、
広く繋がっていれば良いと思った。


「今日は、暑い・・・・な」


晴れ渡る空の下で、夏草が、そよりと揺れた






蒲公英せられて
季節は巡り、命はまた、四散して








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